『沈黙の艦隊 北極海大海戦』の“挑戦的”な国際関係描写 全国民必見の“正義論”のゆくえ

 日本では今まで多くの艦隊・潜水艦映画が制作されてきた。名作『連合艦隊』(1981年)もあるが、『ローレライ』(2005年)や『出口のない海』(2006年)、『アルキメデスの大戦』(2019年)、直近の8月に公開された『雪風 YUKIKAZE』など、2000年代に入ってからも定期的に制作されている。しかし、どれも共通して第2次世界大戦下を舞台としている。ところが『沈黙の艦隊』の場合は、現代が舞台。

 その時点で、かなり挑戦的だ。綺麗ごとをならべるだけでは解決しないし、進んでいかない世界情勢を斬新な角度から切り込んでいる。

 原作は、2019年に『空母いぶき』も映画化された、日本で最も有名な軍事漫画家と言っても過言ではない、かわぐちかいじの代表作。1988年に連載開始された作品であるが、今シリーズはいくつかの設定を現代に置き換えることによって、“今”日本が考えるべき、本当の意味での独立、そして世界平和とは何かを極端ともいえるが説得力もある視点から論議する作品といえる。

 あくまで“もしも”の物語ではあるものの、日本においては最も攻めた内容の軍事作品だといえるだろう。

 今作『沈黙の艦隊 北極海大海戦』は、結論からいうとドラマシリーズを観ていないと理解できない点が多い。もちろん本編に簡単なダイジェストはあるものの、かなりざっくりしている。そのため今作を語るうえで、一部ネタバレを避けることができないことは理解してもらいたい。

 日米共同プロジェクトとして作られた最新型原子力潜水艦“シーバット”。あくまでアメリカ所属ということで、非核三原則が適応されず、核ミサイルを搭載している可能性もある。そんな原潜をジャックした海江田四郎(大沢たかお)と“やまなみ”の元乗組員は独立国“やまと”を名乗り、どこの国にも属さない存在になったことが前作『沈黙の艦隊』(2023年)と Prime Videoドラマシリーズ『沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~』の第1~2話で描かれている。

 “やまと”は、希望の光なのか、それとも理想論を掲げるだけのテロリストなのか。

 日本は終戦後から常にアメリカの顔色を伺っている状況であり、日本とアメリカの関係は常に議論されてきた。例えば日本もアメリカに頼っているだけではなく、矛盾の多い自衛権を改めて軍事武装を積極的に行うべき~という意見や、極論として抑止力的に核武装すべきだという意見もあるが、今作は、日本が軍事に対して、大きな一歩を踏み出したなら、世界はどう反応し、どう動くかを緊張感たっぷりにドラマ第3話~第8話で描いていたが、まだまだ道半ば。

 つまり今作は、ドラマ第8話のラストから直結する内容だ。とくに海江田とはコインの裏表ともいえる深町洋(玉木宏)との対立はドラマで深堀りされているため、深町がどうなったかは映画版だけでは全くと言っていいほど理解できない。マーベル映画もドラマと直結しているとはいえ、さいあく観なくても理解できるようになっていたが、今作はそうではない。内容もそうだが、全体的な構成も挑戦的。映画前作の続編というよりもドラマの続編というか、シーズン1と今後制作されるシーズン2の中間エピソードと言ったほうが正しいだろう。

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