『あんぱん』開幕直前に仲間を鼓舞した嵩の言葉 “人を喜ばせる”精神が客席を満たす

NHK連続テレビ小説『あんぱん』第124話では、ミュージカル『怪傑アンパンマン』の初日がついに幕を開けた。けれどその舞台裏には、成功へとたどり着くまでの小さな衝突と葛藤、そして仲間たちの必死の努力があった。
初日の数日前、のぶ(今田美桜)はある願いを胸に草吉(阿部サダヲ)のもとを訪れていた。舞台に登場させる本物のあんぱんを、草吉に焼いてほしかったのだ。子どもたちにとって“アンパンマン”をより身近に感じてもらうための工夫だったが、草吉は首を横に振る。アンパンマンというキャラクターやその世界観を理解できず、のぶと衝突してしまう。意見の食い違いから喧嘩になる光景はこれまでも幾度となく繰り返されてきたが、それでも諦めないのがのぶの姿勢だった。

その頃、蘭子(河合優実)から「このままでは大コケして大赤字になる」と厳しい現実を突きつけられた羽多子(江口のりこ)とメイコ(原菜乃華)は、自ら街に出てチラシを配り始める。観客を一人でも増やそうと必死に歩き回る姿には、舞台を守り抜こうとする覚悟がにじんでいた。のぶもまた、子どもたちに必死に声かける。商店街や喫茶店に足を運び、笑顔を絶やさず言葉を重ねるその姿は、まさにアンパンマンが体現してきた“困っている人を助ける”精神を映し出していた。
そして迎えた初日。幕が上がる直前の劇場には、不安な空気が漂っていた。客席の埋まり具合を見た演出担当のたくや(大森元貴)は思わず頭を抱え、沈んだ表情を浮かべる。想定以上に空席が目立ち、このままでは惨憺たる結果になると誰もが予感したはずだ。のぶは責任を感じてと謝るが、その声に即座に応えたのは嵩(北村匠海)だった。彼は仲間たちを集めると、静かに、しかし力強く言葉を口にする。
「困っている時、苦しい時こそ、人を喜ばせることをしよう」

それはふと胸によみがえった自らの座右の銘であり、同時にアンパンマンという存在の核をなす精神でもあった。嵩の言葉は沈んでいた空気を一変させ、仲間たちの顔に光を取り戻させる。舞台は決して自分たちのためだけのものではない。目の前の観客を喜ばせるために全力を尽くすという初心を思い出させるひと言だった。
のぶが受付の様子を見に行くと、そこで思いがけない光景に出会う。小さな子どもたちが親に手を引かれながら大勢集まっていたのだ。笑顔を浮かべ、目を輝かせながら入場を待つ子どもたち。のぶのこれまでの努力は決して無駄ではなかった。のぶの真摯な願いが確かに届き、子どもたちを動かしていたのだ。その中には星子(古川琴音)の姿もあった。そしてさらに、岩男(濱尾ノリタカ)の息子・和明(濱尾ノリタカ)の姿もそこに見える。かつて関わってきた人々のつながりが再び舞台を支え、輪を広げていた。

やがて幕が上がると、客席は予想をはるかに超える満員に膨れ上がっていた。子どもたちの歓声と、親たちの温かな眼差し。そこには単なる舞台の成功以上の意味があった。アンパンマンという物語が持つ力、人を助け、笑顔を生み出す力が、現実の劇場空間を満たしていたのだ。
客入りの不安といった困難はあったが、それを超えて結実したのは“人を喜ばせる”という原点の精神だった。アンパンマンの世界観は単なる子ども向けのヒーロー像ではなく、困難な時代を生きる大人たちにも響く普遍的なメッセージとして描かれた。のぶや嵩たちの姿に、視聴者もまた勇気をもらったのではないだろうか。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK





















