今夏のエンタメシーンを盛り上げた藤木直人 『最後の鑑定人』『グラスハート』での功績
エンターテインメントを愛する者たちにとって、この夏の俳優・藤木直人は、とても特別な存在だったのではないだろうか。7月の頭に主演ドラマ『最後の鑑定人』(フジテレビ系)の放送が地上波でスタートし、それからほどなくして話題作『グラスハート』(Netflix)の配信開始が続いた。この2作で演じたのは、それぞれまったく異なるタイプのキャラクター。前者は変わり者だが科学捜査のプロフェッショナルであり、後者はエゴイスティックな音楽業界のボスである。ここでこの夏の藤木の存在を振り返ってみたい。
まもなく最終回を迎える『最後の鑑定人』は、かつて科学捜査研究所のエースとして活躍し、「最後の鑑定人」と呼ばれていた主人公・土門誠(藤木直人)が科学的アプローチを駆使して難事件を解決に導いていくドラマだ。ジャンルとしてはサイエンスミステリーである。
先述しているように土門は科学捜査に関してはプロ中のプロだが、なかなかの変わり者。徹底した合理主義者で、他人の存在など意に介さず。けれども事件となると、たちまち別人のようになる。あきらかに顔つきが変わる。発する言葉の調子や速度が変化する。表情も声も、藤木はシーンに合わせて的確にコントロールしてみせているのだ。クセは強いが頼れる主人公像を、彼は堅実に立ち上げてみせているのである。
いっぽう、『グラスハート』で藤木が演じているのは音楽プロデューサーの井鷺一大。天才的なミュージシャンの藤谷直季(佐藤健)が率いるロックバンド・TENBLANKが音楽の世界で栄光を掴んでいく本作において、先述しているように彼は“ボス”のポジションにある。その思想も、他者に対する言動も、すべてが冷酷無慈悲で独善的。TENBLANKの側に立つ視聴者としては、まさに悪役である。
変わり者だがある種の正義感を持つ『最後の鑑定人』の土門に対し、『グラスハート』の井鷺は対照的なキャラクターだといえるだろう。藤木は絶えず冷たい表情をキープし、ときに不敵な笑みを浮かべる。いかにもボス然とした態度だ。そしてその態度は声にも表れている。他者を侮蔑するようなニュアンスがあり、ときに目の前の相手を力強く突き放す。いや、“排除しようとする”というべきか。たびたび攻撃性を帯びるのだ。