1998年釜山が舞台の『告白ヒストリー』は奥行きある一作に 青春恋愛映画の魅力をより深化
本作を手がけたのは、1980年生まれの女性監督、ナムグン・ソン。この“ロマンティック”な時代に青春時代を過ごし、告白文化の環境を自身が経験しているはずである。韓国だけでなく、近年90年代を題材にした作品が世界的に増えているのは、その時代に多感な時期を過ごし、原点だと感じるクリエイターが第一線に並ぶようになったからだろう。つまりナムグン・ソン監督が本作『告白ヒストリー』を手がけたのは、彼女の世代的な経験が恋愛映画というフィールドで武器になったのである。
そんな監督が、今回初主演となるシン・ウンスを主人公セリ役に抜擢したのは、照れ屋だったり、自分の心情を隠せずに表に出てしまうといった性格が、役柄に重なったからだという。たしかにセリのキャラクターは、ジャンル特有の典型的な演技にはまりながらも、その奥に揺らぎやリアリティが見え隠れし、魅力的に感じられる。それを狙って出しているとすれば、キャスティングの眼力、おそるべしである。
また、ハン・ユンソクは個人的な事情から1年足踏みしたという経緯から、同学年のクラスメートより1歳上という設定なのだが、演じたコンミョンは、20代前半で固められた学校の登場人物のキャストのなか、1年どころではない30代で高校生役に挑んでいる。セリとは逆に、感情を表情に出さない性格を演じながら、母親の前で子どものように泣きじゃくる演技が印象的だ。
普段は感情を表に出さず、友人同士のやり取りでも空気を読めないユンソクは一見、ボーッとしていて軽く見られがちなのだが、ストーリーが進むなかで、じつは頭脳明晰で運動神経抜群だということが明らかになってくる。やや執着し過ぎる面はあるが、一筋に女性を愛し抜く誠実さを持っている。
これは、いわゆるスペックと誠実さを併せ持つ「スパダリ(スーパーダーリン)」と呼ばれる属性であり、それが隠されていたことから、さらに「隠れスパダリ」にカテゴライズされそうなキャラクターだ。年上の俳優をキャスティングしたのは、このような規格外の魅力を出すためでもあるだろう。
また、広安(クァンアンリ)大橋を望む広安里海水浴場、サンフランシスコのように坂から海が見えるショットがあるなど、ロケーションの豊かさも印象深い。「鶴の卵の折り紙」や「ペア・ドッヂ」、韓国の人気漫画『オーディション』、そして伝言メッセージなど、土地の風物やこの時代の韓国にいたからこその要素がちりばめられることで、オーソドックスな内容といえる本作には、鮮やかな彩りが与えられている。
そしてそれらは、ただの彩りのみにとどまらない。何気なく手渡したノートや、何でもない会話など、学生時代の、一瞬、一瞬の気遣いや言葉が、じつは作品全体や、セリやユンソクのなかで大きな意味を持ち、時代そのものが前景へと押し出され、題材と絡まり合って必然性を帯びるのである。その試みが、一つや二つでは収まらず、無数に連続していく細やかさが、本作の最大の特徴なのだ。
そう思えば、キャスティングの妙によって豊かな奥行きが与えられたように、一見オーソドックスなジャンル映画に見える本作『告白ヒストリー』は、周到に計算され練り上げられた、奥行きある一作だったことが理解できるのである。そんな、目に見えにくい工夫によって本作は、ジャンルとしての期待に応えながら、より広い観客が楽しめる、ジャンルの魅力をより深化させた一作になったといえるのだ。
■配信情報
『告白ヒストリー』
Netflixにて配信中
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