『あんぱん』登美子、羽多子、千代子らが担った役割 アンパンマンは“親の愛”の結晶に

 『あんぱん』(NHK総合)は親子関係が作品の軸になっている。この記事では、同作における主人公と親の関係を通して、作品のテーマを探りたい。

『あんぱん』北村匠海が感情を爆発させる 中沢元紀との本気の衝突から見えた“兄弟の絆”

「こんな情けねえ俺、もうやだよ!」  『あんぱん』(NHK総合)第17話では、嵩(北村匠海)の鬱屈が爆発した。  寛(竹野内…

 以前、第17話のレビューで「親のいない子どもたちの物語」と書いた(※)。いま振り返ると、半分正しかったが、半分は外れていた。正しかったというのは、今作のヒロインである朝田(柳井)のぶ(今田美桜)と、夫の嵩(北村匠海)は、子どものときに父親が死去しており、祖父や伯父に育てられたという経緯がある。のぶは2人の妹が、嵩は弟の千尋(中沢元紀)がいて、ともに親をなくした経験を共有している。そのことが、兄弟あるいは姉妹の絆を深め、人生の節目の選択や考え方にも影響を与える。

 外れていたというのは、のぶも嵩も、実母がドラマ終盤まで健在であることだ。この原稿を書いている9月12日時点で、嵩の母の登美子(松嶋菜々子)と、のぶの母の羽多子(江口のりこ)は元気で、ドラマ中盤より出番が増えた感すらある。嵩の育ての親に当たる寛(竹野内豊)の妻・千代子(戸田菜穂)も存命である。

 親がいないこと、あるいは親がいても仕事をしないで酒浸りだったり、借金があったり、家庭を顧みず、生活苦で我が子を奉公に出すなど、子どもが苦労する元凶となる場合を含む。この場合、主人公の人生に壁となって立ちはだかり、親の存在を乗り越えることがドラマ前半の山場になる。幼くして父を失ったのぶと嵩は、悲しみを胸に抱えながら、互いの存在によって支えられる。早くに亡くなった父親は、主人公に絶望をもたらし、乗り越えるべき壁の役割を果たしている。

 一方で、親が子どもに対して抱く愛情は、死んだ後も、折に触れて子どもたちを守る。『あんぱん』の父親は、子どもたちの導き手として再登場する。嵩の父である清(二宮和也)は、嵩が戦争で死線をさまよった時に嵩の夢枕に立った。のぶの父・結太郎(加瀬亮)の「おなごも大志を抱け」という言葉は、針路に迷うのぶの背中を押す。これらは保護し、導く特性であり、父親の存在は嵩やのぶの中に息づいている。

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