『あんぱん』津田健次郎の名演が光った“20年後の最終面接” “発見のある”ドラマを求めて

 さながら20年後の最終面接。第24週「あんぱんまん誕生」(演出:橋爪紳一朗、榎本彩乃)に高知新報の月刊『くじら』の編集長だった東海林(津田健次郎)が再登場した(第119話)。のぶ(今田美桜)たちも50代だから、東海林も60歳を超えているだろう。当時の60代は十分、お年寄りなので、『くじら』時代の熱量はないだろう。

 それにしても東海林は元気がない。とりわけのぶのお茶を飲んだあと、足を崩したときの体の動き。正座からあぐらをかくだけでもいっぱいいっぱい。そこにいるだけで精いっぱいだけれど、無理してふつうに振る舞っているように見えた。津田健次郎の身体表現は見事だった。

 東海林が大儀そうだった理由は第120話でわかる。病を患いながら、必死でのぶと嵩(北村匠海)に会いに来たのだ。

 おそらく、嵩が着々と活躍しているその作品群に、のぶと崇が探しているものの萌芽を感じて、それを確かめに来たのだろう。高知新報の面接でふたりは何かを求めて彷徨っているようだった。

 戦争で突如価値観が変わってしまったとき、何を信じて生きていけばいいのか、誰もが迷っていただろう。東海林は新聞記者として戦時中に報じないといけなかったことと、戦後報道することの違いに欺瞞を感じていたようで、のぶと嵩の「逆転しない正義」探しに共感を覚え、それが見つかったのか死ぬ前に確認したかったのだと思う。

 のぶと嵩の様子から、ふたりはそれを見つけたことに満足し、東海林は亡くなっていく。それをきっかけに嵩は初期のアンパンマンから、現在のあんぱんまん(アンパンマン)の原型が誕生する。

 高知新報(モデルは高知新聞)ゆかりの人物が嵩とのぶ、ふたりで大切なものを見つけたのだと認めることで、モデルであるやなせたかしと暢をリスペクトしたようにも思える。モデルのふたりは幼なじみではなく、戦後、高知新聞で出会ったのだから。

 その高知新聞ゆかりの人をモデルにした東海林が命を賭して嵩たちのやったことを認めてくれたことが、自分の顔を食べさせる自己犠牲(自分が傷つくことと引き換えに)によって正義を達成するというアイデアになるというのはすてきだなと感じた。

 東海林は20年後の最終面接を行いに来たのだ。戦後、まだ迷っていて答えが出せなかったふたりが20年以上経って、やっとたどりついた答えを聞きに来た。こんなすてきで気の長い面接官がいたらどんなにいいだろう。まあ、東海林は面接の中心ではなくオブザーバー的な感じではあったけれど(社員を選ぶ権限はないと言っていたし)。

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