『バレリーナ』“殺し屋少女”ならではの戦闘が痛快 アナ・デ・アルマスの大立ち回りを分析
だが、一部このようなホワイトなやり方ではブレイクスルーできない者もいる。主人公のイヴだ。体格でも体力でも勝る男子相手に正攻法で挑んでは、毎度返り討ちに遭う。見かねたノギがアドバイスをする。「あなたは常に相手より弱い。常に相手より小さくて不利。臨機応変に対応してズルをする。女らしく戦うの」
馬鹿正直に真っ向勝負するような「男らしい」戦いは、文字通り男にやらせておけばいい。「ズルをすること」を言いかえると、「女らしく」戦えとは「頭を使え」ということだ。
ノギのアドバイスを受けたイヴは、男子とのスパーでいきなり金的蹴りから両掌底で鼓膜を打ち、ひるんだところを寝技に持ち込んで絞め落とす。その後、わざわざ蘇生させてから金的を思いっきり踏みつける。最後の金的踏みつけは明らかに蛇足だし、あの勢いなら潰れていたかもしれない。同門女子に、練習でここまでやられた彼に同情してしまう。せめて、彼もいい殺し屋になっていることを願う。
やがて彼女は現場に出るが、まだ新人かつ非力であるため、ザコ相手にも苦戦する。ジョン・ウィックなら無人の野を行くかのように倒していけそうなザコたちにも、派手に蹴り飛ばされ、刃物で傷つけられ、ボロボロになる。
だから彼女は、フィジカル不足を補うかのように頭を使う。使えるものはなんでも使う。シリーズに登場した男の殺し屋たちは、みな殺し屋なりの美学のようなものがあったが、そんなことは言っていられない。そんな余裕もない。
なにしろ、彼女が乗り込んだ殺人教団の拠点は、一見のどかな東欧の田舎町なのだが、すべての住民が殺し屋なのだ。優しそうなカフェの店員も、カフェでコーヒーを飲んでる普通のおじさんも、辺りの家の善良そうな家族も、みんなみんな殺し屋なのだ。全住民が彼女を殺しにくる。余裕なんかあるはずもない。
目をえぐる。手榴弾を口に突っ込んで爆殺。手榴弾を顔にガムテで巻き付けて爆殺。極めつけは、火炎放射器による大量焼殺である。すでに火がついてのたうち回っているがそのままなら大火傷ぐらいで助かりそうな相手には、改めて焼き直す念の入れよう。無駄に残酷な殺し方が多い気もするが、これも余裕がないゆえである。温かい目で見てほしい。
なお、回想シーンにしか出てこないと思われたジョン・ウィックは、きっちりクライマックスにも出てきていいところを持っていった。エンディングも、続編作る気満々な、今までのシリーズを踏襲したような締め方である。
このイヴというキャラクターが魅力的だったのは、その未完成さゆえである。シリーズ化され、彼女が殺し屋としても人間としても成長する過程を観てみたい。ただそれにともない、殺し方がスマートになったらさびしい気もする。派手な殺しはこの作品の華だ。その点だけは、こだわり続けてほしい。
■公開情報
『バレリーナ:The World of John Wick』
全国公開中
出演:アナ・デ・アルマス、ノーマン・リーダス、アンジェリカ・ヒューストン、ガブリエル・バーン、キアヌ・リーブス
監督:レン・ワイズマン
製作:チャド・スタエルスキ
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
2025/アメリカ/原題:From the World of John Wick: Ballerina
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