興収で読む北米映画トレンド

シドニー・スウィーニーの炎上騒動は新作不振に影響したか? 話題作『Weapons』が北米V2

 気になるのは、炎上から約1カ月後に公開された『Americana』の不振が、果たしてSNSを中心とした騒動の影響を受けているかどうかだ。

 もっとも結論から言えば、どうやら影響は(大きめに見積もっても)小さい。本作はアメリカ中西部(共和党が比較的強く、トランプ支持者が多い地域だ)を舞台とした白人中心の“現代西部劇”で、荒涼とした風景や田舎町を魅力的に捉えようとしている。映画のターゲットは一連の広告を批判したような層ではないはずで、最も嫌われやすい「映画のメッセージとは真逆のイメージになった」パターンではないのだ。

 また、アメリカンイーグルの「主張を貫き、謝らない」対応と、スウィーニーの「一切反応しない」対応への賛否は分かれているが、すでに騒動自体が下火だ。実際の広告効果が高かったことが確認されているほか、いくつもの北米メディアがバッシングの声を「実際以上に誇張されたもの」と見ている。今回、The Hollywood Reporterも「バカげていると考えていたユーザーは非常に多かった」と綴った。

 スウィーニーは今週末の8月22日にも出演作『Eden(原題)』が北米公開されるほか、9月5日には伝記映画『Christy(原題)』が、12月にも同じくライオンズゲート配給の主演スリラー『The Housemaid(原題)』が待機中。2026年には「ユーフォリア/EUPHORIA」シーズン3も配信予定のほか、新作の出演情報も続々報じられており、役者としての旬はまだまだ継続中。今後、炎上のイメージをあっさりと吹き飛ばすことも容易に考えられる。

 一連の問題を鑑みると、『Americana』の不振は炎上の影響というよりも、作品が本来届くべき層にうまく届いていないこと、製作から2年で映画の鮮度が落ちたこと、そして西部劇というジャンルの有効性が失われたことが原因と推測される。ケヴィン・コスナー主演・監督の『Horizon: An American Saga(原題)』が全4部作構想だったにもかかわらず、1作目の大失敗で無期凍結状態となったことや、アリ・アスター監督のもとにホアキン・フェニックスやペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラーが揃った、同じく“現代西部劇”の『Eddington(原題)』も不発だったことを思えば、興行の責任をスウィーニーだけに負わせるのは無理があるはずだ。

 しかもライオンズゲートは、強気にも本作の結果を「期待外れではない」としている。配給権を購入した作品が予想以上の不調となることは、残念ながら同社にとっては珍しい話ではないのだ。あらかじめ海外配給権を販売することで利益を得る、あるいは早期の配信リリースに踏み切るなどの方法で、経済的なリスクとダメージを最小限に抑える術を心得ている。

 Rotten Tomatoesでは批評家スコア68%だが、レビュー数はまだ40しかない。今後、評価が伸びる可能性もなくはないだろう。日本公開は未定。

 そのほか今週は、『Mr.ノーバディ2』が週末興収925万ドルで第3位に初登場。前作『Mr.ノーバディ』(2021年)の初動成績680万ドルは上回ったものの、同作は新型コロナウイルス禍の影響をもろに受けた作品だったこともあり、本作単独の期待には及ばなかった。

『Mr.ノーバディ2』©2025 Universal Studios. All Rights Reserved.

 海外市場では491万ドルを記録し、世界興収は1416万ドル。ただし製作費は2500万ドルと控えめなので、超えるべきハードルはそこまで高くない。Rotten Tomatoesでは批評家スコア78%・観客スコア89%と高評価ゆえに、ユニバーサル・ピクチャーズが早期の配信リリースを決断しても十分な利益を生む可能性はある。日本公開は10月24日。

 第11位には『シン・ゴジラ』(2016年)の再上映がランクイン。週末3日間の興収162万ドルで、公開日(8月14日)からの北米累計興収は247万ドルとなった。

 なお、8月15日にはデンゼル・ワシントン主演&スパイク・リー監督で黒澤明監督の名作をリメイクしたAppleオリジナル映画『天国と地獄 Highest 2 Lowest』も劇場公開された。しかし、これは9月5日の配信開始に先がけたプロモーションに近く、『F1/エフワン』ほど力の入った興行ではない。AppleとA24は具体的な数字を発表していないが、興行収入は芳しくないという。Rotten Tomatoesでは批評家スコア90%・観客スコア86%。

北米映画興行ランキング(8月15日~8月17日)

1.『Weapons(原題)』(→前週1位)
2500万ドル(-42.5%)/3450館(+248館)/累計8904万ドル/2週/ワーナー

2.『シャッフル・フライデー』(→前週2位)
1450万ドル(-49.3%)/3975館/累計5477万ドル/2週/ディズニー

3.『Mr.ノーバディ2』(初登場)
925万ドル/3260館/累計925万ドル/1週/ユニバーサル

4.『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(↓前週3位)
880万ドル(-44.3%)/3355館(-245館)/累計2億4703万ドル/4週/ディズニー

5.『The Bad Guys 2(原題)』(↓前週4位)
750万ドル(-29.7%)/3380館(-480館)/累計5721万ドル/3週/ユニバーサル

6.『スーパーマン』(→前週6位)
528万ドル(-33.5%)/2655館(-265館)/累計3億4091万ドル/6週/ワーナー

7.『The Naked Gun(原題)』(↓前週5位)
480万ドル(-42.2%)/3027館(-336館)/累計4197万ドル/3週/パラマウント

8.『ジュラシック・ワールド/復活の大地』(↓前週7位)
290万ドル(-40.1%)/2270館(-421館)/累計3億3211万ドル/7週/ユニバーサル

9.『F1/エフワン』(↓前週8位)
266万ドル(-8.8%)/1172館(-179館)/累計1億8280万ドル/8週/ワーナー

10.『Coolie(英題)』(初登場)
245万ドル/800館/累計245万ドル/1週/Prathyangira Cinemas

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2025年8月18日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照
https://www.boxofficemojo.com/weekend/2025W033/
https://variety.com/2025/film/box-office/weapons-box-office-second-weekend-hold-1236491385/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/weapons-box-office-nobody-2-highest-to-lowest-1236346020/
https://www.hollywoodreporter.com/lifestyle/lifestyle-news/sydney-sweeney-american-eagle-jeans-campaign-controversy-1236344338/
https://www.hollywoodreporter.com/lifestyle/style/sydney-sweeney-american-eagle-responds-jeans-controversy-1236336052/
https://deadline.com/2025/08/box-office-weapons-nobody-2-1236489479/

 

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