『ちはやふる-めぐり-』は“2つの青春”が同時進行する稀有な作品 “めぐる”物語が運ぶ輝き
『ちはやふる-めぐり-』(日本テレビ系)第1話の競技かるたの実演会の時、めぐる(當真あみ)が、初めて仲間とハイタッチしたその手の感触の余韻を味わうように、廊下を歩きながら改めて自分の両手を見つめ、嬉しそうな顔をする様子が忘れられない。
中学受験の失敗や、そのことに纏わる両親の会話を耳にしてしまって以来、「ここでぜいたくをしたら、また全部水の泡になる」と何かに夢中になることを避けてきた彼女が、競技かるたに没頭していく。千江莉(嵐莉菜)との友情を描いた第3話で、めぐると千江莉が「府中夕霧会」の会長・優征(矢本悠馬)相手に協力して札を取った時、思わず手を叩き合った。これから彼女が重ねていくことだろう、仲間とのハイタッチの幸せな手触りは、それこそ奏(上白石萌音)が言う通り、キラキラと輝く「宝石」となって彼女のこれからの人生を彩るのだろう。そんな“永遠のような一瞬”を目の当たりにするドラマだ。
『ちはやふる-めぐり-』が面白い。原作は末次由紀の大ヒット漫画『ちはやふる』(講談社「BE・LOVE」所載)。2016年、2018年に広瀬すず主演で3部作の実写映画が上映された。改めて今見返すと、広瀬すず、上白石萌音ら主要メンバーはもちろん、ライバル校の学生役に清水尋也と坂口涼太郎、2018年版の『ちはやふる -結び-』に登場するのが佐野勇斗と清原果耶と、現在第一線で活躍中の若手俳優が勢揃いしていることがわかる。
本作は新章として映画『ちはやふる』から10年後の世界をオリジナルストーリーで描く。原作者・末次由紀が脚本のプロット段階から関わり、脚本そのものは、複数の脚本家と共同で執筆していく「ライターズルーム」というシステムの中で構築され、それらの脚本を統括する立場であるショーランナーを、映画版の監督・脚本を手掛けた小泉徳宏が担当するという新しい手法を用いているも興味深い。
『ちはやふる』というタイトルが主人公・綾瀬千早(広瀬すず)の名前と得意札〈ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは〉を意味していたように、『ちはやふるーめぐりー』の「めぐり」にも、主人公の藍沢めぐるの名前と、彼女の名前が入った〈めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな〉が隠れている。
また、『ちはやふる -結び-』におけるかるた会の先輩・坪口(田村健太郎)の「こういうのはほら、巡ってくもんだから」という言葉そのまま、まさに10年巡ったその先で、今度は教える側の立場に奏たちがいるという意味も込められているだろう。また、映画版からの出演メンバーである卒業生たちの中でも特に、古典文学好きの大江奏というキャラクターが主軸になることは、彼女が変わらず愛し続けている「1000年前から続く、時を越えても変わらない人の思い」の集積としての百人一首の歴史含めて「めぐる」時代と変わらぬ人の思いを思わせるのである。さらに、月浦凪(原菜乃華)とめぐるの得意札となるだろう歌が、それぞれに清少納言と紫式部の歌であることから「なんて巡り合わせなの」と奏が言う場面も印象深い。