ショートドラマ市場が急速に拡大中 経営者たちが語り合う「BUMP」誕生以降の実態

 SNSを中心に急速に広まりを見せる“ショートドラマ”。しかしその実態や市場構造、そして今後の可能性については、まだまだ見えづらい部分も多い。そこで今回は、国内ショートドラマの最前線を走るキープレイヤー4名に集まってもらった。

 参加者は、ショートドラマアプリ「BUMP」を運営するemole株式会社の澤村直道、縦型ショートドラマアプリ「テラードラマ」、小説アプリ「テラーノベル」を運営する株式会社テラーノベルの蜂谷宣人、縦型ショートドラマプラットフォーム「FANY :D(ファニーディー)」などのエンタメ事業を手がける株式会社Mintoの中川元太、そしてショートドラマ企画制作を手掛けるOne Acreの折茂賢成。それぞれの立場から語られるリアルな声によって、ショートドラマの現在地とこれからの戦い方が見えてきた。

日本のショートドラマ市場はなぜ誕生したのか?

(左から)中川元太、蜂谷宣人、澤村直道、折茂賢成

――はじめに各企業さんと関係が深く、市場を俯瞰的に見られているOne Acre折茂さんから近年のショートドラマ市場の盛り上がりについてお話しいただければと思います。

折茂賢成(以下、折茂):はい。ショートドラマ市場は、2023年頃に中国で爆発的に拡大し、現在はおよそ1兆円規模にまで成長していると言われています。それに追従するかたちでアメリカなどの周辺国の企業も成長し、最近では日本や韓国も市場参入に向けた動きを見せています。日本の市場については2024年のデータを参考にすると、およそ130億円規模ではないかという話も出ているんですが、中国のようにプラットフォームを大量に投入して市場を獲りにいく手法をそのまま日本で採用しても、必ずしも成功するとは限らない。そうした中で、私たちとしては「どのようにして勝っていくのか」をまさに検討している段階です。市場に関してはそのような状況、今日はプラットフォーマーとして、中華プラットフォームと戦うみなさんと市場の現状を共有しつつ、基本的な話からディープな部分までお話しできたらなと思っております。

――ありがとうございます。ではここからは、澤村さんから順に各サービスの紹介、強み、参入した理由などについてお話しいただければと思います。

(左から)蜂谷宣人、中川元太、澤村直道、折茂賢成

澤村直道(以下、澤村):emole株式会社代表の澤村と申します。ショートドラマ配信アプリ「BUMP」を運営しており、日本では初めてのショートドラマ配信アプリとしてスタートしました。特徴としては、動画を縦・横のどちらの向きでも視聴できる点が大きく、これは中華系プラットフォームなどにもない強みです。実際にクリエイターの方々からも、縦横の選択肢があることで作品の幅が広がると喜ばれており、配信可能なコンテンツのバリエーションを増やす要因にもなっていると思います。市場に参入したきっかけについてですが、僕の場合は「参入」というよりも、そもそも市場が存在しない段階から“市場を作る”ところから始めた感覚ですね。やろうと思った一番の理由は、「ドラマというジャンルにおいて、作り手の民主化ができるのではないか」と感じたことでした。当時のドラマといえば“1時間で1話観る”という視聴スタイルが主流で、他ジャンルのコンテンツが次々とショート化されていく中で、「なぜドラマだけショート化されないのか?」という疑問を持っていました。そんな中で、近しい変化を遂げていたのがマンガ市場でした。この10年ほどでマンガは、紙の単行本からオンライン配信へと移行し、それに伴い市場は急速に拡大しています。このビジネスモデルをドラマに応用できれば、新しい市場が生まれ、より多くの作品や収益を生み出しながら大きく成長していけるのではないかという可能性を感じていました。

中川元太(以下、中川):Mintoの中川と申します。Mintoではショート動画市場に対して、主に2つのアプローチを取っています。まず一つがスタジオ事業として、ショート動画のコンテンツを制作・配信する取り組み。もう一つが、ショート動画プラットフォーム「FANY :D」の運営です。FANY :Dは吉本興業グループさんとドコモグループさんの3社共同で展開しているもので、ゆくゆくは吉本所属の芸人さんを活用したコンテンツづくりなど、他社にはない強みを活かした展開を進めていく予定です。参入のきっかけとしては、中国でショートドラマ市場が盛り上がっているという情報や、日本では「BUMP」さんが急成長しているといった動きをキャッチしていたことがあります。加えて、もともと僕らは縦スクロール型のWebtoonを手がけていたのですが、ショートドラマとその作品の性質が非常に近いと感じたため、自社のノウハウを活かせると考えました。もう一つ大きな理由は、澤村さんもおっしゃっていたように、「課金型」のビジネスモデルが映像の分野でも成立し得るのではないか、という点です。もし映像作品に対するリターンが今までよりもっと大きくなるビジネスモデルが成立すれば、Mintoが掲げていた「クリエイターに正しく還元し、その循環の中でより面白い作品を生み出していく」というテーマにも合致する。そう確信できたことが、この市場に参入した大きな理由です。

――ありがとうございます。では続いて「テラーノベル」の蜂谷宣人さん。

蜂谷:テラーノベルはもともと小説のプラットフォームを祖業としてスタートした会社です。僕らはDMMグループからスピンアウトしたチームなんですが、その際の方針として「IPを軸としたビジネス展開していこう」という考えがありました。当初はマンガに注力していたんですが、さらなるIP開発として映像化に取り組むこととし、最も親和性が高そうだったのが縦型ショートドラマだったので、そちらの分野に進出しました。私たちが開始した縦型ショートドラマアプリ「テラードラマ」の特徴としては、やはり小説プラットフォームを起点としていることから、人気小説を原作としたドラマ作品を楽しめるという点です。作家さんとよく話すのですが、一つ一つの小説作品には彼らの強い思いや、ユニークな着想が込められていると感じます。そして、このような多様な作品が生まれる土壌そのものが日本独自だなと。こうした日本文化っぽい小説を原作としたショートドラマ作品を展開しているのがテラードラマの特徴かなと思っています。

作り手が感じるショートドラマならではの魅力

――ここからはお題に対する回答をひと言で表してください。一つ目のお題は、「まだハマってない人に伝えたいショートドラマならではの魅力」でお願いします。

折茂:僕の回答は「汁」です。

一同:(笑)。

(左から)澤村直道、折茂賢成

折茂:人生を生きていると、“脳汁”が出る瞬間っていっぱいありますよね。つまりアドレナリンが出るような、感情が揺さぶられる体験。普通はそれなりのコストや時間をかけないと得られないものですが、ショートドラマってそれを手軽に味わえると思うんです。映画だったら2時間じっくり座って観るところを、ショートドラマではその感覚をサクサクと短い時間で疑似体験できる。だからこの「汁」っていう言葉を選びました。

中川:多分みんな似たようなキーワードになると思うんですけど、僕は「キャッチー」と書きました。言っていることは折茂さんとほとんど一緒ですね。テレビドラマを観ている方に伝えるとすれば、テレビドラマで得られる体験って、実はショートドラマと本質的には変わらないと思っているんです。ただショートドラマはそれをもっと短く、わかりやすく、テンポ良く、しかも刺激的な要素をギュッと凝縮させている。

蜂谷:僕も「気軽」と書いたんですが、縦型のショートトラマに限定して話すと、1話が本当に数分で観られるんですよね。めちゃくちゃライトなので、まだ観たことがない人に伝えるとしたら、「マジで気軽だから、まずは1回観てみてほしい」と思います。

澤村直道

澤村:ただ「短いからラクに観られるよ」だけだとちょっと魅力が伝わらない気がしていて、「視始めから刺激が得られる」みたいな体験を推したいなと思っています。他のみなさんと大体一緒なんですけど、僕は「カタルシス感じる始まり」と書きました。作品を観たときに一番最後に感じられる気持ちよさ――爽快になれる瞬間みたいなものが、ショートドラマでは冒頭から味わえる、あるいはそれを“予感”できるというのが魅力かなと思っています。通常のドラマだと、人物関係の説明とか、世界観の理解にある程度時間がかかると思うんですが、ショートドラマはそういう前置きがほとんどなく、最初からすっと没入できる。そこが面白いところですね。

テレビドラマとは異なるショートドラマのクリエイティビティ

――続いて「今後考えられるショートドラマならではのクリエイティビティ」についてお話しいただければと思います。

澤村:僕は「刺激入り口 感動出口」と書きました。これからショートドラマはどんどんフォーマット化していくと言われていて、ファッションでいうZARAやユニクロのようなものに近づいていくと思うんです。そうなってくると、「クリエイターとしてどこにやりがいを感じるのか?」という問いが出てくる。やっぱり、さっきも話に出たように、ショートドラマは“入り口”での刺激やカタルシスがとても重要。でもそれだけじゃ、その場の視聴や収益で終わってしまう。長期的に見て「また観たい」と思えるか、「BUMPの作品、観て良かったな」と思ってもらえるか、そこが本当に重要なんですよね。ただ、その“出口で感動を残す”って、売上には直結しないからなかなか評価されづらい。でも実はそこにこそ、文化として広がっていく鍵があると思っています。

中川:もはや“ならでは”じゃなくて、“ならなくてはならない”ですよね。ショートドラマは“感動の出口”の設計がまだまだ未開拓というか、そこまでやれている作品が少ない印象があります。

折茂:作品の離脱の理由って、ほとんどがネガティブ要因なんですよね。「飽きた」とか。

澤村:最後まで観たのに何も心に残らなかったとか、課金したのにスカだったとか。

中川:それが最悪ですよね。ただ難しいのは、感動を大事にしようとすると、どうしても“今までのドラマ”っぽくなってしまう。「ショートドラマは従来のドラマと違うんだ」と言いたいのに、結局は同じ道に戻ってしまうというか。そうなると、「感動の出口なんて気にしなくていいよ」と聞こえてしまうようなプロデュースになってしまう。でもそれは本意じゃないんですよね。僕はこれはステップだと思っていて、初めてこの領域に取り組む人に作ってもらうと、今までの手癖で“普通のドラマ”を作ってしまう。だから「まずはショートドラマ一回学んでね」から始めるべきなのかなと思ってますね。ショートドラマ“ならでは”というより、「ショートドラマってこういうものだろうな」と思ってもらうための一つの伝え方がが、“めちゃくちゃテンポの良い『半沢直樹』(TBS系)”だと思うんです。さきほどの話にもあったように、わかりやすさやテンポの良さ、刺激の強さがショートドラマの本質だとしたら、それを持っている日本のドラマが『半沢直樹』。ありえないぐらいのオーバーリアクション、ありえないぐらいの事件がテンポよくどんどん起こっていくのがすごくキャッチーで掴みやすかった。だから、ああいうものをショートドラマで作っていくべきなのかなと思っています。

蜂谷宣人

蜂谷:僕は「1話の濃さ」と書いたんですが、今やっているのが縦型ショートドラマなので、その場合どこを一番重要視するかというと「1話観たときにちゃんとそれが美味しいかどうか」なんですよね。2分でも3分でも、1話ごとに作品の満足感をきちんと入れるようにしていて、そういう意味ではショートドラマは1話1話がものすごく“濃い”んですよ。100分や120分撮っていても、編集では1話ごとに高密度にして、観終わったときに「これ1話しか経ってないの!?」と驚いてもらえるくらいイベントを詰め込む。日本の通常のドラマだと、何か起こす前にしっかり理由づけをすると思うんですが、ショートドラマではいきなりキスして、理由は後回し。なんだったら理由は語らない。それでも面白い、そういう大胆さや展開の密度がショートドラマならではの醍醐味かなと思っています。

折茂:今までのお話はどちらかというと作品の中身の話だと思いますが、僕が書いたのは、それを“どうユーザーに届けるか”の工夫、つまりややプロデュースサイドっぽい視点です。今うちがチャレンジしてることとして、同じ演者さん・同じスタジオを使って、6日間とか7日間のスケジュールの中で一気にまったく別の3作品撮影にチャレンジしています。演者もロケ地も同じなのに、企画や演出のアプローチによって「面白さ」がガラッと変わってくる。その中でどれが一番刺さるのかを見て、ヒットするものを選んで売っていくみたいな動きですね。

――たしかにそれは連ドラではあり得ない、いい意味で省エネ的発想ですね。

中川:中国もそんな感じで撮っていますよね。同じ場所で4作品くらい同時に撮るみたいにして、1本あたりの単価が下がるんですよね。

関連記事