ジェームズ・ガンはなぜ、スーパーマンを“はみだし者”に? レガシーからの脱却を紐解く

非ガン的キャラクターからガン的キャラクターへ

 おそらくデヴィッド・コレンスウェット演じる今回のスーパーマンは、シリーズ最弱だろう。肉体的に脆く、精神的にも薄弱。口を開けば、恋人のロイス・レインとすぐ喧嘩してしまう。ザック・スナイダーが監督した『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)、『ジャスティス・リーグ』(2017年)のスーパーマンが神の如き存在だったことを考えると、えらい違いである。なにしろ本作は、スーパーマンが敵との戦いに敗れるという衝撃のオープニングで幕を開けるのだから。

 おまけに、スーパーマンの実の両親ジョー=エルとララ・ロー=ヴァンが息子に託したメッセージが「地球を征服せよ」だったことが判明し、彼はあっという間に人類の敵として見なされてしまう。周囲の人々からモノはぶつけられるわ、怒号は浴びせられるわ。この時点で彼はヒーローとしての立場を失ってしまう。

 それはすなわち、非ガン的キャラクターだったスーパーマンが、「社会の規範から外れた“はみだし者”」という、ガン的キャラクターへと変貌を遂げた瞬間でもある。ジェームズ・ガンは、完全無欠のスーパーヒーローをいきなり敗北させ、人類の敵にすることで、アメコミ史上最も有名な英雄を自分のフィールドへと引き摺り込んだ。

 スーパーマンの愛犬クリプトも、重要なキャラクターだ。戦いに敗れたスーパーマンが口笛を吹くと、はるか彼方から現れたのは白い毛むくじゃらのイッヌ。瀕死の彼にじゃれまくり(というか、ほとんどドつきまわし)、南極の秘密基地へと引きずっていく。めちゃめちゃラブリーだが、めちゃめちゃバイオレントなのである。

 よくよく考えてみれば、『スーパー!』のウサギ、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の遺伝子改造が施されたアライグマ・ロケット、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』のキング・シャークなど、“はみだし者”の傍らにはいつも相棒となる動物たちがいた。コミックではお馴染みのクリプトを実写映画に初登場させたのは、スーパーマンを“はみだし者”として描くためのマスト条件だったのだろう。

 しかもクリプトにインスピレーションを与えたのは、ガンが2022年5月に飼い始めたという愛犬オズ(この名前は、映画監督の小津安二郎から名付けられている)。保護施設から引き取られたオズは、言うなれば社会の周縁にいる者の象徴。スーパーマンと同じく、クリプトにも“はみだし者”というガン的キャラクターの役割が与えられている。

ジェームズ・ガン「スーパーマンは移民の物語だ」

 何より、ジェームズ・ガン自身が“はみだし者”といえる存在だ。過去にTwitter(現X)に投稿した小児愛やレイプに関する不適切なジョークが問題視され、2018年に彼はディズニーを解雇されている。その後、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の出演俳優たちが彼を支持する声明を発表したことで解雇は撤回されたものの、一度マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)から追放されているのだ。そんなジェームズ・ガンを救ってくれたのが、DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)。流れ者/アウトローとして、彼は新しいユニバースにやってきたのである。

 「スーパーマンは移民の物語だ」とジェームズ・ガンはインタビューで答えている(※2)。そう、クリプトン星からやってきたカル・エルことスーパーマンは、見知らぬ世界に舞い降りた移民=“はみだし者”。最初は断っていたスーパーマンの企画をジェームズ・ガンが手がける決心をしたのは、このヒーローに「異質な存在としての孤独」という、彼が一貫して描いてきたテーマと自分自身を見出したからだろう。

 新しく生まれ変わった『スーパーマン』は、隅から隅までジェームズ・ガンの映画に仕上がった。かつてのような下品なジョークや過激な暴力描写が薄味になったことで、彼の真っ直ぐな正義感や倫理観がむしろ浮き彫りとなり、フィルムの上でキラキラと輝いている。今なお、スーパーマンはアメコミ史上最も偉大なヒーローであり続けている。

参照
※1.https://www.nytimes.com/2025/07/18/movies/superman-james-gunn-dc-studios-interview.htm
※2.https://www.thetimes.com/culture/film/article/james-gunn-interview-superman-film-2025-david-corenswet-dhb3bw3rp

■公開情報
『スーパーマン』
全国公開中
出演:デヴィッド・コレンスウェット、レイチェル・ブロズナハン、ニコラス・ホルト、エディ・ガテギ、ネイサン・フィリオン、イザベラ・メルセド、スカイラー・ギソンド、ウェンデル・ピアース、ベック・ベネット
監督:ジェームズ・ガン
配給:ワーナー・ブラザース映画
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公式サイト:superman-movie.jp

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