『オールド・ガード』シリーズは“不死”の要素が最大の魅力 続編への不満と第3作への期待
さて、続編である本作『オールド・ガード2』では、アンディが不死の能力を失った状況を継続している。戦闘で傷を負うと、当然治癒までに時間がかかり、致命傷を受けると死に至るという状況にある。密かに薬局で治療薬を求める際、店員の女性に同情され助けられる描写は、本作でとりわけ印象的な箇所だ。
このような“シスターフッド”表現は、劇中の同性愛要素と同様に、とくに本シリーズで重要なものであり、本作のラストで、それは大きな意味を持つこととなるだろう。前作のジーナ・プリンス=バイスウッド監督から、『スター・ウォーズ』続3部作で第二班監督などを務めてきたビクトリア・マホーニー監督という、女性の監督同士の継投とあわせて、ここでは一種の感慨深さが生まれている。
アンディは本作において、ついに地上に復帰したクインと遭遇する。500年もの間苦痛を味わっていたクインは、自分にこのような仕打ちをした人間たちへの憎しみと、その間ずっと自由の身だったアンディへの恨みを募らせていた。あのような経験をしたのでは、どれほど闇を抱えていても仕方がない。その割には、アンディと拳を交えながらも、人間性を残しているように見えるクインは、むしろ「聖人レベル」と言っていいほど穏やかな存在だといえるのではないか。
クインを演じているゴー・タイン・ヴァンは、この怒りを持ちながら心の奥の善良さを秘めるキャラクターを好演している。路地の狭いスペースでの攻防では、とくにクインの中国武術のようなアクションが、作品に奥行きを与える。本作の主要な俳優たちには、スタントパーソンがついているが、この中盤でのアンディとの格闘では、格闘術を得意とするプロフェッショナルなスタントパーソンのローレン・メアリー・キムが演じていると思われ、この種の映画でのスタントの重要性を再認識させられる。
また、クインを操り陰謀を巡らせる謎の存在として出現するのが、“不和”の意味を持つ「ディスコード」といわれる不死者だ。数千年生きているアンディより、さらに昔から不死の状態にあるという彼女を演じているのが、ユマ・サーマンである。
前作よりも強大な敵であり、アンディの先輩となる役柄を演じられる俳優は、数少ない。現在のハリウッドで圧倒的な存在だといえるシャーリーズ・セロンに対峙するには、それなりの名前でなければ、説得力がない。ユマ・サーマンをキャスティングできたというのは、それだけで意義深いところがあるといえるだろう。
残念なのは、優秀なスタントパーソンのバックアップがありながらも、ディスコードとアンディとの“対決”が、物語上控えめなものとなり、大規模なアクションやカタルシスが次作にまわされている。その意味では、キャスティングが象徴としての配置にとどまってしまった印象もある。
おそらくラストとなる第3作に繋ぐ意味がある作品とはいえ、この第2作自体は盛り上がりに欠け、製作側にとってあまりにも予定調和の流れであったという印象が拭えない。近いコンセプトであろう『スター・ウォーズ』旧3部作の第2作が、あれほど人気が集まるエピソードとなったことを考えると、こういった“次”の意識から淡白になってしまっている内容に不満が生まれることは避けられない。
実際本作は、大手批評サイトにおいて、プロ批評家や観客のスコアが非常に低いものとなってしまっている。そして前作で最もインパクトを与えられた永遠の拷問という要素に、匹敵する仕掛けがなかったことも低評価の理由になっているものと思われる。たとえ配信映画であっても、“繋ぎ”の要素が強い作中であっても、観客は一つの映画に強いカタルシスやスリルを求めるものであり、本作はそれを取りこぼしたことは確かなのだろう。
しかし本作で立ち上がってきた、能力の喪失の選択や、譲渡などの要素は、“不死”という本シリーズに与えられた要素に、新たな広がりをもたらしたといえる。これは明らかに、次作におけるそれぞれのキャラクターの人生の哲学的選択に影響を及ぼすものと考えられ、これが作品全体のテーマに直結するはずである。
本作『オールド・ガード2』自体は、強い印象に欠けるものとなってしまったが、“不死”という要素には依然として力があり、原作者自身が用意する結末に期待が持てることについては変わらない。第3作の配信は、現時点ではまだ明らかになっていないが、願わくば、このシリーズのポテンシャルを発揮しきる可能性のある最終作を、心待ちにしたい。
■配信情報
『オールド・ガード2』
Netflixにて配信中
出演:シャーリーズ・セロン、キキ・レイン、キウェテル・イジョフォー、ユマ・サーマン、マティアス・スーナールツ、マーワン・ケンザリ、ルカ・マリネッリ、ヴェロニカ・ンゴー、ヘンリー・ゴールディング
監督:ヴィクトリア・マホーニー
Eli Joshua Ade/Netflix © 2025