『鬼滅の刃 無限城編』の完成度は期待以上 猗窩座戦ラストのアニメ演出に涙が止まらない

猗窩座再来

 もっとも、その後に来る炭治郎と義勇による猗窩座との決戦を観てしまうと、善逸がトップに来ることは難しいとも思える。それだけ凄まじいドラマと戦いがあって、涙が止まならくなるからだ。

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』で炎柱の煉獄杏寿郎を倒し、ただただ憎しみの的でしかなかった猗窩座との戦いで、何を泣かされることがあるのか、煉獄のように誰か柱が倒されるのかといった想像を、原作未読の人に与えるかもしれないが、これだけは言っておく。猗窩座に泣かされる。絶対に。

 強くなることだけを追い求め、鍛え上げられた肉体で空手のように手足を使った技だけを繰り出す武闘派の鬼。それが、無限城を走る炭治郎と義勇の前に立ちふさがる。煉獄の死を悲しみつつ、鍛錬を重ね経験も積んで強くなった炭治郎の技が、少しは猗窩座に届くようになっている。水柱の義勇は元から強い。だから、一方的な戦いにはならない。負けたと思わせて勝ったように見せて絶望感を抱かせてといったジェットコースターのような展開に、ひたすら翻弄される対決になっている。

 それもいつかは決着する。そのときに浮かぶ、猗窩座という鬼がまだ人間だったときのエピソードがどうにも切ない。たとえ美形で声が宮野真守でも、しのぶと同様に「地獄に堕ちろ」と言ってグッズからすら目を背けたくなる童磨とは違って、同情なり憐憫なり共感といった感情を向けたくなる。そんな猗窩座が最後の最後に取る行動が、アニメではグッと溜めてから驚きの方向へと進んだ上に、ボリューミーに描かれていて、その心情に感嘆したくなる。

 炭治郎と義勇の前に立ちふさがったときの傲慢な物言いから、戦いの中で迷いを生じさせ、そして過去を振り返る中で起こった変化を繰り返すように人間性を回復していく猗窩座の声を、石田彰がこちらも早見と同様に完璧以上に演じている。ここが最大の見せ場であり聴かせ所といった2人の演技を、存分に堪能できるという意味でも第一章は必見であり必聴の映画だ。

 映像的にはやはり、無限城の描写が唖然とするほど凄まじい。原作は無限とはいえ少しばかり大きなお城といったところに留まっていた感があったが、アニメは過去にも度々描かれていたように入り組んでいて底が見えなかった。『無限城編』ではさらに広さが増し奥行きが増し次元すらも増えたようで、どこまで行っても廊下が続き部屋が並んでいる上に、そうしたブロックが前後上下左右を問わずどこまでも続いていて、都市といったレベルすら超えるものになっている。走ってたどり着く距離ではない。

 そこまでしなくてもと言いたくなるほどだが、そこまでしたからこそ戦いの困難さが強調され、結果として打ち破り乗り越えたときの感動も大きくなると言える。戦いはそんな広大無辺な無限城のほんの片隅で幾つか繰り広げられただけ。決着していないものもあって第二章は誰がどこでどのような戦いを見せるのか、そしてどのように無惨に近づいていくのかが大いに気になる。

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』
全国公開中
キャスト:花江夏樹(竈門炭治郎役)、鬼頭明里(竈門禰󠄀豆子役)、下野紘(我妻善逸役)、松岡禎丞(嘴平伊之助役)、上田麗奈(栗花落カナヲ役)、岡本信彦(不死川玄弥役)、櫻井孝宏(冨岡義勇役)、小西克幸(宇髄天元役)、河西健吾(時透無一郎役)、早見沙織(胡蝶しのぶ役)、花澤香菜(甘露寺蜜璃役)、鈴村健一(伊黒小芭内役)、関智一(不死川実弥役)、杉田智和(悲鳴嶼行冥役)
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:矢中勝、樺澤侑里
美術監修:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:Aimer「太陽が昇らない世界」(SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)・LiSA「残酷な夜に輝け」 (SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
総監督:近藤光
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
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公式サイト:https://kimetsu.com/anime/mugenjyohen_movie/
公式X(旧Twitter):@kimetsu_off

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