『べらぼう』横浜流星×風間俊介の笑顔と涙が最高の回に 蔦重の“遊び”は現代こそ響く

 「遊びじゃないから、遊びにすんじゃねぇですか」とは、蔦重(横山流星)のモットーを言い得た台詞だと思った。

 それは数年前に「不要不急」だと言われエンタメが次々と自粛されていったパンデミックの世界を知る、現代の私たちも痛感したばかり。人間、笑ってる場合じゃないときにこそ、笑いが必要。そして、その笑いこそが人と人との輪をつなぐ大きなきっかけになっているということを。

 NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第25回「灰の雨降る日本橋」では、浅間山の大噴火によって江戸に灰の雨が降る。自然災害を前に誰もが困惑する中で、蔦重だけが「これは恵みの灰」と口角を上げるのだった。

 蔦重が狙っていたのは、もちろん日本橋への仲間入り。柏原屋(川畑泰史)から日本橋・丸屋の店を買い取り、須原屋(里見浩太朗)の持つ松前家による抜け荷の証を交換条件に田沼意知(宮沢氷魚)から出店の協力を取り付けた。だが、いくら書類上「手に入れた」と言っても、そこにいる人々に受け入れられなければ商売は難しい。

 そんな矢先に降った浅間山の火山灰。蔦重は丸屋の屋根に登り、瓦の隙間や樋を古い着物で覆い尽くす。「江戸一の利き者」の名にふさわしく、蔦重はこの灰はいずれ処理しなければならないものだと状況を先回りして予測していたのだ。布や桶を駆使して、灰をできるだけ集めやすい形にしておくという意図を理解した日本橋の人々も、蔦重にならって作業を始める。そして、予想通り奉行所から「灰を捨てよ」との指示が出ると、日本橋を2チームに分けてどちらが早く灰を川へ捨てることができるかを競争しようと提案。しかも士気を上げるために、蔦重は自腹で10両の賞金を出すと言い放つのだった。

 すると、これ以上蔦重のペースに乗せられてたまるかと言わんばかりに、鶴屋(風間俊介)も「では、私からは25両出しましょう」と対抗。ただの掃除が、ざっと数百万円を掛けた大勝負になってしまったのだから、これには日本橋の人々も大興奮だ。灰を川に捨てる桶リレーのアンカーを務めるのは蔦重と鶴屋。接戦を繰り広げ、鶴屋のリードでゴールするかと思いきや、蔦重がドボンと川に落ち、すぐに浮いてこないものだから大混乱。もはや敵も味方もなく、みんな大慌てで救出すると「誰か助けてくれると思った」と、蔦重の口からはなんとも呑気な言葉が。あまりのバカバカしさに鶴屋も思わず素で吹き出さずにはいられない。そんなこんなで、勝負は引き分け。みんなで飲んで労おうという流れになるのだった。

 直接会って、話して、共に汗を流して、飲み食いすれば、打ち解けるというのは、いつの時代も変わらない。遊びを生業にする吉原という街で育った蔦重が最も得意とする人心掌握術だ。しかし、肝心の丸屋・女将のてい(橋本愛)の姿が見えない。ひとり店の掃除を続けていたていは、日本橋を見事に盛り上げた蔦重のことを、幾度も国を変えながらその土地々々を豊かにしていった古代中国・越の武将「陶朱公(范蠡)」を引き合いに出して称賛する。そして「店を譲るならばそういう方にと思っておりました」と言い、翌日出ていくつもりだと言うのだった。そんなていに改めて蔦重は「夫婦になろう」と持ちかけた。人付き合いを得意とする蔦重と、学があって日本橋についてよく知るていが協力すれば、よりよい店が作れるはずだと。

 あくまでも「商いのためだけの夫婦」となることを決めた2人。その報告を受けた歌麿(染谷将太)が「じゃあ、雇いってことでいいじゃねぇの。なんだって夫婦になんだよ」と、面白くなさそうにしているのが微笑ましかった。商売上の「女房役」ならもうここにいるではないか、と言わんばかりの拗ねっぷり。もちろん、蔦重にはそうした繊細な機微は伝わらず「お前は俺の弟なんだから!」と笑われてしまう。それでも不満げな表情がほぐれなかったのは、もしかしたら成長とともに蔦重に守られるべき弟から、対等のビジネスパートナーとして信頼されたいという気持ちが少しずつ大きくなっているのかもしれない。

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