『あんぱん』“元”愛国の鑑・のぶの葛藤 嵩はどんなときも“逆転しない正義”を探し続ける

 嵩(北村匠海)とのぶ(今田美桜)が4年ぶりの再会をしたNHK連続テレビ小説『あんぱん』第63話。深い喪失感の中にいたのぶに差す一筋の光が見えた回だった。

 戦争の終わりは、大きな生活の変化をもたらすものだ。働き口を探さなければと口にするメイコ(原菜乃華)に、蘭子(河合優実)は男性が帰ってきたらいつ郵便局を辞めさせられるかわからないと口にする。家庭に入り、子を産むことが女性の務めだった時代。男性不在の町では肉体労働を求められていたが、男性が戻ってきたらその席を譲らなければならない。徐々に働く女性の存在が当たり前のものになっていくとはいえ、配偶者がいない朝田家の三姉妹は、どのように生きていくべきか悩むことになる。

 次郎(中島歩)亡き後も空襲の被害が残る高知市内で過ごすのぶには、未来を考える余裕はないようだ。戦後の夢を共に語った次郎は隣におらず、一緒に暮らした街はがれきの山。町を眺めるのぶの背中から、深い喪失感が伝わってくる。

 そんなのぶに声をかけたのは、4年ぶりに再会した嵩だった。戦時中は何度も戦争に関する価値観をぶつけあい、すれ違っていた2人。のぶはゆっくりとあの頃のことを懺悔するかのように、心の中にあるわだかまりと教師を辞めた理由を語り始める。のぶの頭には、これまで自分が教師として子どもたちにかけてきた言葉が思い起こされる。男子生徒に向けては兵隊になること、女子生徒には家族を笑顔で戦地へと見送ることが正しいと教えてきた。ずっと心の中にある違和感を無視し、立ち止まらず疑いもせず、軍国主義こそが正しいと、それこそが教師のあるべき姿だと、自分に言い聞かせるように過ごしてきた。日本が敗戦に終わり、教科書は墨で黒く塗りつぶされていった。子どもたちにこれまで学ばせてきたこと、戦争を肯定する声をかけることが間違っていたと深く実感させられる。何より、日本も他国も戦争で多くのものを失った。町も家族も。悲しみに直結する戦争へと導く教えをしてきたことへの罪悪感がのぶを襲っている。

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