芳根京子×本田響矢『波うららかに、めおと日和』はなぜ尊い? ”丁寧な対人関係”が肝に

 やりとりは手紙か電報で、1日の終わりには日記をつける。昭和ならではの時代背景にふたりの奥手ぶりも手伝って、『波うららかに、めおと日和』からは人情の機微がくっきりと浮かび上がる。

 “ていねいな暮らし”が言われるようになって久しいが、現代においてはあくまで自分と向き合うものだった。日常に心地よさを求め、いらないものを捨て、部屋を掃き清め、下ごしらえにも時間をかけて料理をつくってきた。

 翻ってこのドラマは、“コスパ”や“タイパ”が重視される今の時代にとっての“古き良き価値観”を他者との関係性に敷衍する。言うなれば対人関係版“ていねいな暮らし”である。それは隅々にまで息づいているが、なかでも第3話は出色の出来栄えだった。

 なつ美を散歩に誘った瀧昌は帰宅後の縁側で「ほんとうは、おれの秘密の場所にも案内したかったんですけど」と笑う。そこは亡父がしばしば連れていってくれた、夏になれば蛍が飛ぶ山合いの小川だった。なつ美は両の手でしっかと瀧昌の手を包み、口を開く。「来年、(自分に言い聞かせるように)ううん。(瀧昌を見上げて)再来年も、その次も、見にいきたいです。我が家の恒例行事にしませんか? あ、まあ瀧昌さまが帰ってこられればですが……」。瀧昌は腰をかがめ、なつ美に目線を合わせ、万感の思いを込める。「我が家……。それなら……。かならず帰らないといけませんね」。早くに両親を亡くした瀧昌にとって、“我が家”というフレーズはたまらなくうれしいものだった。

 瀧昌がふたたび船上の人となることを知ったなつ美は感情が抑えられなくなり、「さみしいぃ」と声をあげて泣く。あなたの孤独を解消する方法も言葉も持っていないと優しく語りかける瀧昌はこう、言葉を継ぐ。

「なので、両親の真似をします。(海軍士官だった)父は、いつも出立前に、母に髪を切ってもらっていました。それは、後ろ髪を引かれる思いを断ち切るという決意と、かならず帰るという、約束でもありました。なのでなつ美さん。おれの髪を切ってください」

 いずれも、それこそ何度でも味わいたくなる、滋味溢れるシーンだ。そうしてお互いの距離を徐々に縮めていったふたりは(そこからさらに3話を要するのだが!)、晴れて結ばれる。

芳根京子&本田響矢は“直感派”? 『波うららかに、めおと日和』で発見した互いの魅力

4月24日よりフジテレビ系で放送がスタートする木曜劇場『波うららかに、めおと日和』。昭和11年の日本を舞台に、“交際ゼロ日婚”か…

 読点を打ったタイトルもいい。文字起こしをするとわかるけれど、実際の台詞もやたらと読点が多い。このドラマはゆっくり、じっくり生きましょう、と呼びかけている。

 物語も後半戦に入り、軍靴の足音が聞こえてきた。願わくは、凪の日がいつまでも続きますように――。

波うららかに、めおと日和

西香はちによる同名コミックを原作としたハートフル・昭和新婚ラブコメ。昭和11年を舞台に交際ゼロ日婚からスタートする、歯がゆくも愛らしい“新婚夫婦の甘酸っぱい時間”を丁寧に描く。芳根京子の俳優デビュー作『ラスト♡シンデレラ』(フジテレビ系)を手がけた平野眞が演出を担当する。

■放送情報
『波うららかに、めおと日和』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:芳根京子、本田響矢、山本舞香、小関裕太、小宮璃央、咲妃みゆ、小川彩(乃木坂46)、戸塚純貴、森カンナ、高橋努、紺野まひる、生瀬勝久、和久井映見ほか
原作:西香はち『波うららかに、めおと日和』(講談社『コミックDAYS』連載)
脚本:泉澤陽子
音楽:植田能平
主題歌:BE:FIRST「夢中」
プロデュース:宋ハナ
演出:平野眞
制作協力:FILM
制作著作:フジテレビ
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