『あんぱん』“登美子”松嶋菜々子が担う社会へのカウンター 中園ミホが込めたメッセージ
とうとうその時が来てしまった。NHK連続テレビ小説『あんぱん』第10週で、柳井嵩(北村匠海)が出征していった。町の人たちがたすき掛けで集まる中、産みの親・登美子(松嶋菜々子)と育ての母・千代子(戸田菜穂)が、嵩を見送る姿が描かれた。
『あんぱん』『ブギウギ』『虎に翼』も 朝ドラが描いてきた“赤紙”と戦争に向かう男たち
NHK連続テレビ小説『あんぱん』は第10週に入り、戦争がますます激しくなってきた。脚本を担当する中園ミホは、「私はやなせさんを描…戦死前提として送り出される嵩を前に千代子は泣いてしまい、婦人会の面々に責められながら、悲痛な表情で「立派に」「お国のために」といった言葉を絞り出そうとする。対して登美子は、突然列に切り込んできて、「死んだら駄目よ。嵩、いいこと、絶対に帰ってきなさい! 逃げ回ってもいいから……卑怯だと思われてもいい。何をしてもいいから、生きて、生きて帰ってきなさい!」と言いたいことを言う。憲兵隊が制しても怯むことのない登美子と、その後ろで涙を堪えてじっと嵩の顔を見ている千代子の表情から目が離せなかった。
この千代子と登美子という二人の母の対比は、物語の初期から描かれてきた。子どもがなかった柳井寛(竹野内豊)夫妻に、登美子は次男である千尋(中沢元紀)を養子に出し、さらに長男の嵩も預けて他の男と再婚する。登美子が嵩と再会するのは8年後だ。その間、訪ねてきた子どもの嵩を、「親戚の子」扱いして追い返すということまでしている。
その登美子は、再婚相手とうまくいかなくなり、柳井家にいけしゃあしゃあと戻ってくる。二人の息子を育ててきた千代子は、子どもたち以上に怒り心頭だ。それなのに、登美子は再婚相手の家で身につけてきたらしいお茶など点て始める。千代子は「いつまで、いらっしゃるがですか?」と登美子を牽制。対する登美子は「お茶、お花、お琴、一とおりのことは身につけました。それでも、女が1人で生きていくのは大変なんですよ。それに、私は嵩のことが心配なんです」と余裕綽々で返す。