“団地”はなぜ良ドラマを生み出すのか 『しあわせは食べて寝て待て』などから考察

 小林聡美と小泉今日子のドラマといえば真っ先に思い出す『すいか』(日本テレビ系)では、賄いつきの下宿で暮らす風変わりな人々が描かれていた。『ラスト・フレンズ』(フジテレビ系)は、悩みを抱えた若者たちがシェアハウスで暮らす物語だった。ただ、賄いつきの下宿はリアリティがなくなり、シェアハウスは初老の男女にはちょっと厳しい。『作りたい女と食べたい女』(NHK総合)のユキ(比嘉愛未)と十々子(西野恵未)のように、マンションでお互いが行き来するようになるには、そこそこの思いきりと偶然性が必要になる。もともとコミュニティがあって、隣人とも近い団地は、ほどよい距離感に映る。

 高齢者が多い団地は、余生を受け止めてくれる場所でもある。『団地のふたり』では野枝と奈津子が「あとは余生だけ」「ちょっと待って。私たちって余生なの?」と語り合う場面があった。「夕日野団地」というネーミングも象徴的だ。『しあわせは食べて寝て待て』の弓(中山ひなの)のように夢に向かう若者は団地を出ていくが、『団地のふたり』の靖(仲村トオル)のように早期退職して母の介護をする人は団地に帰ってくる。人生から少し降りた人たちが黄昏に包まれながら穏やかに暮らしていく場所として、団地は最適なのだろう。

 高齢者をはじめ、病気がちな人、経済的に豊かとは言えない人、独身の人、若い家族、シングルファザー、外国人など、多様な背景を持つ人たちが寄り合って生きている。それが現在の団地の姿だ。団地には孤独な人たちもいる。同じ滝山団地でロケをした『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系)の主人公・サチ(清野菜名)は車椅子の母・邦子(和久井映見)とふたりきりで、周囲とコミュニケーションを取らずに生活していた。そんな人たちも団地は受け止めてくれる。

 昭和の風景を色濃く残す団地にノスタルジーを抱く人もいるとは思うが、実際は超高齢化と低成長が続く現代社会の縮図のような場所だ。けっして未来は明るいとは言えないが、希望がまったくないわけではない。『しあわせは食べて寝て待て』は薬膳の力で自分の体を労うことの大切さを描いていた。自助はひとりきりだと辛くて大変だし、公助は期待できないが、共助と互助があれば、自助だってできないことはない。現在の団地はそんなことを伝える舞台として、うってつけの場所なのだろう。これからも団地が舞台のドラマが作られ続けていく予感がする。

■配信情報
ドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』
NHKプラス、NHKオンデマンドにて配信中
出演:桜井ユキ、宮沢氷魚、加賀まりこ、福士誠治、田畑智子、中山雄斗、奥山葵、北乃きい、西山潤、土居志央梨、中山ひなの、朝加真由美
原作:水凪トリ『しあわせは食べて寝て待て』
脚本:桑原亮子、ねじめ彩木
音楽:中島ノブユキ
演出:中野亮平、田中健二、内田貴史
制作統括:小松昌代(NHK エンタープライズ)、渡邊悟(NHK)
写真提供=NHK

関連記事