吉田鋼太郎の“職人芸”が炸裂! 『あんぱん』『花子とアン』中園ミホ脚本が引き出す“深み”

 今田美桜が主演を務める朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)の放送がはじまり、早くも2週目に入った。のちに今田が演じる朝田のぶはまだ幼く、自然豊かな高知の町を舞台に、彼女と家族の日常が紡ぎ出されているところだ。これはヒロイン・のぶの人生をメインに描いていくドラマだが、現在の彼女を演じているのは子役の永瀬ゆずなだ。パワフルな演技で視聴者を魅了してはいるが、物語を前に進めていくにはやはり大人たちの力が必要だ。そんな大人のひとりが、吉田鋼太郎である。

 本作は、誰もが知る有名キャラクター・アンパンマンの生みの親である夫婦をモデルに、のぶと柳井嵩(北村匠海)の激動の生涯を描いていくものだ。私たちはこの作品をとおして、人々に広く長く愛され続けている『アンパンマン』という作品の誕生の背景を知っていくことになる。のぶの幼少時代を描いている現在は、そのスタート地点だといえるだろう。

 そのような作品で吉田が演じているのは、のぶの祖父である朝田釜次。「朝田石材店」の三代目で、その道一筋の石工である。番組公式サイトの人物紹介ページには“手先は器用だが、人への接し方は不器用。”と記されているが、これを吉田は非常に器用に表現し、ひとりの演技者としてまさに“職人芸”を披露している。

 本作における吉田の演技は、緩急自在だ。いや、それはどんな作品においてもいえることか。直近の例を出すと、『となりのナースエイドSP2025』(日本テレビ系)でも『【推しの子】-The Final Act-』(2024年)でも、吉田は自由度の高いキャラクターを演じていた。各キャラクターを丁寧に分析すれば、もちろんそれぞれの性格に違いはある。たとえば、“明るい”とか、“怒りっぽい”とかだ。けれども吉田に与えられる役どころはいつも、そういった特定の性格一辺倒のものではない。脚本から読み取ることのできる人物像に余白があるのだろうか。それとも実際に演じる吉田自身がアレンジしているのだろうか。

 朝田釜次は職人気質の頑固者だが、多くの人々がイメージする職人でも頑固者でもないだろう。寡黙どころか饒舌であり、渋面を浮かべることもあるが笑顔ものぞかせる。謎だらけのフーテンのパン職人・屋村草吉(阿部サダヲ)との豪快で軽快なやり取りが展開するたびに笑ってしまう。そう、ステレオタイプの職人でも頑固者でもない。このキャラクターは自由度が高く、各シーンを盛り上げもすれば、引き締めもする。『あんぱん』において吉田が担っているのはこのようなポジションなのだ。

 もしも朝田釜次という人物を誰かほかの俳優が演じていたとしたら、このようなキャラクターは生まれていなかっただろうし、ここまで作品の印象を左右するような存在にはなっていなかったのではないだろうか。作品をつくるうえで、いかにキャスティングが重要か。演じているのが吉田だからこそ、いまの朝田釜次があり、いまの『あんぱん』がある。そう断言したい。

関連記事