悠木碧が体現した猫猫の“ひとりごと” 『薬屋のひとりごと』第1期に刻まれた心の機微
1月10日より連続2クールで放送されるTVアニメ『薬屋のひとりごと』第2期。本作の心臓部とも言えるのは、猫猫の「ひとりごと」だ。毒を見抜く時の鋭い分析、事件の真相に迫る冷静な推理、宮廷の人々を観察する時のつぶやき。それぞれの場面で語られる独白が、少しずつ猫猫という人物を形づくっていく。宮中で渦巻く陰謀の中、猫猫を演じる悠木碧の声は、帝や寵妃たちとの駆け引きを通して、静かな緊張感とともに響き渡る。
だがそれらは概ね猫猫の胸の内にしまわれたまま、外の世界にはでてこない。表面的には淡々として見える猫猫だが、その独白はときに怒りや悲しみを携えた確かな重みを持って響いてくる。悠木は、こうして「ひとりごと」を重ねることで、静かに、そして着実に猫猫を立体的な存在へと昇華させていくのだ。
猫猫と悠木の関係は、アニメ以前のドラマCDから始まっている。アニメ化で多くのキャラクターの声優が一新されたこともあり、両方を聴き比べると、同じ物語でありながら変化した空気感も楽しめるだろう。猫猫については、TVシリーズの方が無愛想さがやや引き立っているように感じられた。
第6話「これ、毒です」
現在、アニメは大きな反響を呼び、数々のPVやショート動画が制作されている本作。その中で猫猫の代名詞とも言えるセリフが、第6話「園遊会」での「これ、毒です」だ。この場面で猫猫は、園遊会での毒見役として、帝や寵妃たちの料理を味わう。スープを口にした瞬間、その表情は恍惚としたものに変わる。うっとりと舌なめずりをして味わう姿に、傍らにいた武官の李白は思わず「どれだけ美味いんだ!?」と声を上げてしまうほど。
しかしその直後、猫猫の表情は一転する。凛とした眼差しで毒が入っていると淡々と告げるのだ。この一連の流れにおける表情や声色の変化は、まさに悠木の演技力が遺憾なく発揮された瞬間といえるだろう。美味しさに心を奪われる一瞬と、毒を見抜く冷静な判断。その絶妙な対比が、このシーンをより印象的なものにしている。
この「これ、毒です」というセリフは、本作の象徴的なシーンとして、アニメのプロジェクトPVでも重要な位置を占めてきた。監督・シリーズ構成の長沼範裕によれば、PVと本編では意図的に異なる言い方がなされているという。PVではより強い印象を残すための「引き」を意識し、第6話では物語の流れに沿った表現を採用しているようだ。実際に聴き比べてみると、PV版では、色っぽくうっとりした猫猫とのギャップをみせるように「毒です」という言葉により強い緊張感が込められていたように思う。