『クレイヴン・ザ・ハンター』の意欲的な挑戦 『ヴェノム』シリーズと対照的な“映画らしさ”
「狩猟」とは、古来から人間が生きるためにおこなってきた生活の一部であり、世界的に貴族、王族の遊びでもあった。そうやって社会のなかで位置付けられてきた「狩猟」文化には“特権性”や、ある種の“暴力性”が内在しているといえるだろう。
セルゲイの心にあるのは、母親の面影だ。父親ニコライの振る舞いなどから精神的に追いつめられたことに、彼は少年時代より怒りを覚えていたのだ。つまり、“男としての格を上げる”ことを目的とした、ここでのニコライの「狩猟」が象徴するものとは、家族を支配しようとする家父長的な有害さなのである。だからこそ母の無念を忘れないセルゲイは、動物たちの側にシンパシーを感じ、金儲けのために密猟するハンターたちに牙を剥こうとする。
本作はこのように『クレイヴン・ザ・ハンター』という題材を、ギャングの抗争や家父長制への反発の物語として解釈し、主人公の成長と従来の価値観から超越する姿を映し出している。そして、人間ドラマを描いてきたJ・C・チャンダー監督と、肉体を鍛えつつもどこか繊細さを残しているアーロン・テイラー=ジョンソンの演技、そして支配者としての迫力を表現できる重厚な俳優ラッセル・クロウによって、一つの映画作品として見応えのある内容となったのだ。
考えてみれば、吸血鬼映画へのオマージュやマット・スミスのスタイリッシュな吸血ダンスを生み出した『モービウス』も、スパイダーマンの助けとなっていくだろうヒーローの誕生の物語と女子たちとのアツい共闘が描かれた『マダム・ウェブ』も、それぞれに見応えがあった。このような、一つひとつの作品のなかに作り手が作家性を発揮できるという意味においては、シリーズとしての計画に優れたマーベル・スタジオの作品よりも、ところどころ無計画にも感じてしまっていた「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」の方が、やや優れている点なのかもしれない。
とはいえ、このユニバースも、キャラクターたちも、思わせぶりだった伏線たちも、本作『クレイヴン・ザ・ハンター』の興行的な結果によって、本当に見納めになってしまうことになりかねないのは、非常に残念なことだ。なぜなら、このように比較的作品間のリンクが弱い独立的なヒーロー映画を作り続けていたワーナー・ブラザースのDCコミックスを原作とした映画の制作体制が、本格的にマーベル・スタジオ型の統括的なものになることが予想されているからだ。
とはいえ前述したように、ヒーロー大作映画に多様性をもたらしてきたソニーによるスパイダーマン作品は、今後も確実に継続していくこととなる。まずは、その成功を祈りたいところだ。
参照
https://www.thewrap.com/kraven-the-hunter-sony-marvel-universe-spider-man-box-office/
■公開情報
『クレイヴン・ザ・ハンター』
全国公開中
出演:アーロン・テイラー=ジョンソン、アリアナ・デボーズ、フレッド・ヘッキンジャー、アレッサンドロ・ニヴォラ、クリストファー・アボット、ラッセル・クロウ
日本語吹替版:津田健次郎(クレイヴン“セルゲイ・クラヴィノフ”役)、山路和弘(ニコライ役)、入野自由(ディミトリ役)、田村睦心(カリプソ役)、堀内賢雄(ライノ“アレクセイ”役)、鈴木崚汰(少年セルゲイ“クレイヴン”役)、上村祐翔(少年ディミトリ役)
監督:J・C・チャンダー
脚本:アート・マーカム&マット・ホロウェイ、リチャード・ウェンク
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
レーティング:R15+
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