『名探偵コナン 隻眼の残像』見どころを考察 劇場版シリーズの“サブキャラ掘り下げ”が鍵に

 近年の『名探偵コナン』劇場版シリーズの魅力とは、サブキャラクターをじっくりと掘り下げることで『名探偵コナン』の世界観そのものも拡張する部分にある。あくまでも主役は江戸川コナンでありつつも、2024年公開された『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』(以下、『100万ドルの五稜星』)では服部平次と遠山和葉を、2023年公開の『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』(以下、『黒鉄の魚影』)では灰原哀と黒の組織を、2022年公開の『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』では安室透、そして高木渉、佐藤美和子カップルを掘り下げ、時には原作でも描かれてこなかったようなエピソードも交えながら各キャラクターの魅力をより感じられる作劇が印象深い。

 特に『黒鉄の魚影』における、コナンに対する限りなく恋心に近い信頼を表す灰原の海中でのシーンや、『100万ドルの五稜星』における服部から和葉に対する告白シーンは『名探偵コナン』(以下、『コナン』)史においても重要な描写であると共に、『コナン』という作品を愛している観客であればあるほどにグッとくるシーンであった。原作、アニメ本編では見ることの出来ないキャラクターの姿を描く劇場版『コナン』シリーズだからこそ近年注目度が加速していると共に、ファンを掴んで離さないのだ。

 そうした意味で先日情報公開された来春公開の新作『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』(以下、『 隻眼の残像』)はそのキャラものとしての『名探偵コナン』の極地のような作品になる予感がヒシヒシと伝わる。『隻眼の残像』においてキーパーソンとなるのは大和敢助、上原由衣、諸伏高明らのいわゆる長野県警組、そして毛利小五郎だ。近年の作品群でメインを務めたキャラと比べると普段から注目を浴びているキャラクターたちとは言い難いものの、一方でディープなファンからは確かな人気のある存在。そういったキャラクターたちを劇場版という大舞台で描くことは、ディープなファンにとっては各キャラの新しい一面を知ることのできる良い機会になり、またライトなファンやここからコナンを知っていく新しいファンにとっては各キャラそのものに触れるきっかけになるのではないだろうか。

 大和敢助、上原由衣、諸伏高明ら長野県警組のこれまでの登場エピソードを振り返ると、『コナン』の中でもダークな空気のある事件が多い。特に「県警の黒い闇」のエピソードは車に引きづられて首が切断されるような描写もあり、『コナン』で描かれてきた膨大な事件の中でも指折りのグロテスクな事件と評されている。また『コナン』の登場人物の中では数少ないハードボイルドな雰囲気を漂わせ、物騒な言葉を使うことの多い大和敢助のキャラクター性も相まって、長野県警の登場回はシリアス調のエピソードが多い。灰原と阿笠博士が敢助を不審者だと勘違いしてしまうエピソードがあるほどだ。『隻眼の残像』ではそんな大和敢助の知られざる過去が描かれる。彼の左目が隻眼となったキッカケのとある事件が本作の重要な鍵を握ることとなりそうだ。個人的には幼なじみであり両思いでもある敢助と由衣のラブシーンにも期待したい。

 一方の諸伏高明は敢助とは真逆の穏やかで論理的なキャラクター。彼もまた敢助や由衣と幼なじみであり、敢助とはライバルのような関係性。特筆したいのは高明の弟が警視庁公安部所属の諸伏景光であるということ。景光はかつて降谷零(安室透)と共に黒ずくめの組織へ潜入捜査を行っており、コードネーム・スコッチとして降谷同様にNOC(Non Official Cover)としてスパイとして組織の情報を集めていたキャラクターだ。景光は組織内で正体が露見してしまい、同じくFBIから組織に潜入していた赤井秀一に追い詰めれてしまうが、仲間の情報を知られないように携帯電話ごと心臓を撃ち抜いて自殺したとされている。降谷と赤井の間に因縁が生まれたのはこの一件がキッカケなのだが、『隻眼の残像』には安室透が登場することも明かされており、タイトルロゴにはこの携帯電話を撃ち抜いた銃痕が描かれており、高明、そして安室の景光にまつわるやり取りに期待がかかる。

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