『光る君へ』柄本佑の失意の表情が忘れられない 道長のまひろへの思いを振り返る

 NHK大河ドラマ『光る君へ』第45回「はばたき」で、まひろ(吉高由里子)は道長(柄本佑)に賢子(南沙良)にまつわる秘密を明かした。

「賢子は、あなた様の子でございます」

 道長を演じる柄本佑は、突然訪れる出来事に道長が動揺を隠しきれなくなるさまを絶妙な表情で見せてくれる。

 まひろの突然の言葉に道長は目を剥いた。かつて道長はまひろに「不義の子を産んだのか?」と問いかけている。その時にまひろははぐらかして答えなかったが、まさかその子どもが自分の子どもだとは思いもよらなかったのだろう。まひろと別れた後、道長は土御門殿の女房となった賢子を遠くから見守っていた。誰よりも大切に思うまひろとの間にできた娘に何もしてやれなかった後悔か、罪悪感か、道長の中にさまざまな感情がこみあげ、人知れず、歯を食いしばる姿が強く印象に残っている。

 道長は決して、道長をライバル視し、物語後半では復讐心から道長を呪詛することが生きがいとなっていた伊周(三浦翔平)のようには、感情をむき出しにしない。伊周に比べると表情に乏しいうえ、言葉が足りずに誤解されやすい人物ともいえる。だが、今も昔も嘘をつけない正直者であることに変わりはない。だからこそ、感情を表に出さないよう努めながらも、まひろへの思いを抑えきれていない場面がこれまでいくつもあった。

 たとえば第13回の終わり、道長とまひろが4年ぶりに再会する場面がある。道長が倫子(黒木華)に婿入りして以来、顔を合わせていなかった2人は予期せぬ再会に息を呑む。この時、柄本は口を固く閉じながらも見開いた目から動揺が伝わる顔を見せた。「なぜ、まひろがここにいるのか」という道長の心情がひしひしと伝わってくるものだった。続く第14回冒頭では、従者の言葉で冷静さを取り戻したように見えたが、倫子と幼い娘・彰子の言葉が耳に入らないほど頭の中はまひろでいっぱいになっている。倫子の前で「ああ、よい風だ」と平静を取り繕いながらも、その口元はどことなく物憂げで、心の底から再会を喜べない切なさに満ちている。

 第25回では、宣孝(佐々木蔵之介)を通じてまひろが夫を持つことを知る。「為時の娘も、夫を持てることになりました」と言われた時、道長は「それはめでたいことであった」と落ち着いた調子で返答していた。しかし、それまで宣孝が話すのを聞きながらずっと手元の書類にばかり目を向けていた道長が、宣孝の言葉にパッと顔をあげる様はあきらかに驚きを表している。その後、宣孝が「実は、私なのでございます」「為時の娘の夫にございます」と告白すると、書類を持つ手元にグッと力が入る。いたずらな顔で道長の様子をうかがう宣孝の姿もあいまって、道長の複雑な心境が伝わってくる場面だった。道長はあくまでも上司と部下の距離感を保ったまま、宣孝とやりとりを続けていたが、やはり一人になるとまひろのことを思ってしまうようで、仕事に身が入らないような表情を浮かべる。

 そして第27回、まひろと道長は石山寺でふいに再会。思い出話に花を咲かせながらも、2人はお互いに昔とは違う自分たちの関係性を思い、感情を抑え込もうとしていた。けれど、そうやすやすと思いを押し殺すことなどできない。一度その場を立ち去った道長だったが、走って戻ってくるとまひろを強く抱きしめる。この場面で柄本が見せた表情、感情が溢れ出すのを堪えきれないといった無垢でもの悲しげな面持ちは決して忘れられない。また、まひろの頬や唇に触れる優しい手元や、肌を重ねた後に抱き寄せる姿からも、これまで以上に純粋でまっすぐなまひろへの愛おしさに満ちていた。この時、まひろは道長との子である賢子を懐妊する。

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