『グラディエーターII』はいま世に送り出す意義のある続編に 前作からのブレないメッセージ

 狂気の乱痴気騒ぎのなかにおいても、命をかけて戦う者には、聴衆からの敬意がおのずと払われ始める。数々の戦いに生き残り勝利した者ともなれば、自国の兵を犠牲にして権力を拡大させながら、自身はけっしてリスクを払うことのない皇帝や貴族たちよりも人気が高まるというのは、ある意味当然のことだ。

 “モノ”として扱われる剣闘士と、その生死を決めることのできる皇帝との関係は、そのまま戦争における兵士と執政者との関係を想起させる。戦場のミニチュアであるところのコロセウムだからこそ、そこでの振る舞いによって皇帝の地位や権力が揺らぎかねないというのは、少なくとも映画のなかでは理に適った描き方であるといえよう。コロセウムでの死闘を鑑賞する行為のなかにも一定の倫理性が存在するという描写は、観客もまた、残酷な描写のある映画に倫理性を見出すことができる可能性を示唆し、われわれを救おうとしてくれる。

 そして本作では、そこで人々の目が集まる皇帝よりも、その裏で暗躍して利益を得る奴隷商人マクリヌスを、さらなる悪として映し出している。イタリアの画家カラヴァッジォの作品『ホロフェルネスの首を斬るユーディット』を思い起こさせる、本作で最もショッキングな一場面の残忍さは、その狂気にも似た権力志向を表現していると感じられる。

 マクリヌスは史実にも登場する、歴史上重要な人物であるが、そんなキャラクターに本作は、“元奴隷”という設定を与えている。これは、奴隷という立場だからこそ民衆の境遇に心を寄せるルシアスとは逆に、同じような立場を経験しながら富や権力に固執するようになるという、彼の対照的な生き方を際立たせるためだろう。つまりルシアスとマクリヌスは、陽と陰を表す鏡像として表現されていることが理解できるのだ。そう思えば、マクリヌスを演じる名優デンゼル・ワシントンに対して、演技力の高いポール・メスカルを抜擢した理由が納得できるのである。

 物語の舞台は、戦場のミニチュアであるところのコロセウムから、再び本物の戦場へと転換する。奴隷たちの支持を得たルシアスの戦いは、ローマを健全化し、格差を是正するための目的を持っている。その戦いをクライマックスに設定した本作は、シリーズ2作の帰結に、現代の社会の課題を投影したことで、作品に通底する倫理観を、色濃く浮かび上がらせようとするのだ。

 そして、麦の穂に優しく手を触れる、映像を2作にまたがらせた本作『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』は、本シリーズのテーマをより明確に印象づけようとする。それは、民衆の声を聴き、国の土台となるものを大事にする、地に足のついた者こそが、市民の代弁者たり得るという考え方である。そんな前作からブレないメッセージは、混迷を深めるいまの時代にこそより光り輝いたものに感じられ、本作を送り出した意味を強固なものとしているのである。

■公開情報
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』
全国公開中
監督:リドリー・スコット
脚本:デヴィッド・スカルパ
キャラクター創造:デヴィッド・フランゾーニ
ストーリー:ピーター・クレイグ、デヴィッド・スカルパ
出演:ポール・メスカル、デンゼル・ワシントン、ペドロ・パスカル、コニー・ニールセン、ジョセフ・クイン、フレッド・ヘッキンジャー、リオル・ラズ、デレク・ジャコビ
配給:東和ピクチャーズ
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