『光る君へ』柄本佑の繊細な感情表現に唸る これまでとまったく異なる「望月の歌」の解釈
そんな道長だが、まひろといる時だけは本音を明かせる。そして、ふいに思いが滲み出てしまうことで、まひろの前でしか見せない顔がある。摂政と左大臣を辞すという決意を固めた道長は、自分が摂政に上っても世の中は変わらなかったと打ち明けた。そんな道長にまひろは、道長の「民を思いやる心」が頼通に伝わり、次の代、その次の代へと引き継がれることを願っていると口にする。まひろの心強い言葉に励まされ、佇まいがふと安堵したように変化するのが印象的だった。
柄本が見せる道長の感情の出し入れは見事だ。「ならば、お前だけは念じていてくれ」と伝える場面でのまっすぐ向けられたまなざしと声色には、まひろを真に想い続けてきた説得力がある。道長は決して倫子(黒木華)や明子(瀧内公美)をないがしろにしてきたわけではないが、その後まひろの局にやってきた倫子とのやりとりは、どこかビジネスライクだ。視聴者としては道長の態度の差にハラハラさせられることもあるが、まひろと道長の関係を深く落とし込んだ柄本が見せる演技だからこそ、まひろの前でだけ道長の感情が思いがけずあらわになる様にグッと心が掴まれるといえよう。
物語の終わりに描かれた「望月の歌」にはさまざまな解釈がなされてきた。おごりの象徴という解釈もあるが、本作においては、我欲のない道長らしい印象を受けた。もちろん、政の道具のように入内させられたと感じる妍子や威子(佐月絵美)はこの歌を悪く捉えたかもしれない。だが、まひろだけには道長の謙虚さが伝わったのではないか。まひろと道長が静かに視線を交わす姿は美しく思えた。
■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK