『おむすび』には“カッコいい人”が一人もいない? 不器用な登場人物たちの愛おしさ

 自由人の永吉といつも他者の目を気にしてはっきりしない聖人はまったく似てないようで、他者に心情を理解されにくい点では似ている。わからなさでいえば、愛子が結の年齢(高校3年)で歩(仲里依紗)を身ごもっていたので、母として生きること以外の選択をしなかったということも疑問が浮かぶ。元スケバンらしいので、10代で妊娠することも不自然ではないのかもしれない(スケバンは10代で妊娠することにためらいがないという認識は偏見かもしれないので失礼があったら申し訳ないが)。

 聖人はひとり神戸に出てきて、愛子に癒やしを求めたのであろうか。10代の愛子との間に子どもができることをどう思ったのだろうか。また、自分が理容師として修業の身で10代の女性と子どもと家族になることをどう考えたのだろうか。この件、さらっとでは済まされない問題のような気がするが、愛子の一言でさらりと流れていく。朝、一回、観ただけだと、聖人がだらしなく感じたが、あとあと考えると、簡単に聖人や愛子の選択を理解した気になってはいけない気がしてくる。ここにも何かドラマがありそうではないか。すでにここまでの段階で、思いがけないことをあとから出してくるのが『おむすび』の特徴とわかってきたので、油断はできないと今後に身構える。SNSでは歩は聖人の子どもではない説もあがっていた。

 10代で母になり、ほかの進路を選択できなかった愛子が、いま、得意のイラストを生かしてブログを発信し、彼女なりに、結や聖人のように、自分のやりたいことを模索している。予測し得なかった災害によって停まってしまった時間を動かそうとする、聖人、愛子、結と歩。米田家の人たちの他者には理解されにくいささやかな行動は、神戸編では明確な理解に及ぶことはあるのだろうか。

 歩が佐々木(一ノ瀬ワタル)と楽しげに旅している写メを送ってくるのも、このふたりの関係ってどうなっているの?という謎に満ちている。かつて『あまちゃん』(2013年度前期)でグレて、地元のヤンキーとつきあったユイちゃん(橋本愛)のような感じなのだろうか。現代の地方都市を描くうえでヤンキー文化は欠かせない。ヤンキー文化を朝ドラに取り入れる取り組みは、現代ものの朝ドラで時折トライされているようだ。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、宮崎美子、松平健、佐野勇斗、菅生新樹、松本怜生、中村守里、みりちゃむ、谷藤海咲、岡本夏美、田村芽実ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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