北米No.1『ヴェノム:ザ・ラストダンス』にみるヒットと苦戦 ヒーロー映画の未来はいかに
10月25日~27日の北米映画週末ランキングは、『ヴェノム:ザ・ラストダンス』がNo.1に輝いた。トム・ハーディ主演、ソニー・ピクチャーズ製作による、マーベル・コミック『スパイダーマン』から派生した3部作の完結編だ。しかしながら本作は、海外市場では大ヒット、しかし北米では伸び悩むという興味深い結果を示している。
北米週末興行収入は5100万ドルで、事前の予測値である6500万ドルを大幅に下回った。オープニング興行収入としては、第1作『ヴェノム』(2018年)の8025万ドル、第2作『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021年)の9003万ドルに届かず、過去最も低い滑り出しとなっている。
今ひとつ動員が伸びなかった理由として考えられるのは、ワールドシリーズのドジャース対ヤンキース戦が本作の公開日にぶつかったこと、大ヒットゲームの最新作『Call of Duty: Black Ops 6』がリリースされたこと、そして家族や友人たちと早めのハロウィンパーティーを週末に開催した人が多かったとみられることだ。いずれにせよ、それらを押しのけて劇場に足を運ばせるほどの力はなかったということになる。
『ヴェノム:ザ・ラストダンス』はRotten Tomatoesで批評家スコア37%、観客スコア80%を記録。本シリーズは過去2作も批評家の評価が低く、観客の支持が大きかったため、その傾向は変わらないが、本作は劇場の出口調査に基づくCinemaScoreでは過去最も低い「B-」評価となった。北米における興行収入と観客の反応からは、そもそも『ヴェノム』シリーズの求心力がだんだん落ちていることが想像される。
その点、この映画とソニー・ピクチャーズを救ったのは海外市場だった。海外興収は世界64市場で1億2400万ドルと破格の数字で、全世界累計興収は1億7500万ドル。製作費はスーパーヒーロー大作としては控えめの1億2000万ドルなので、急激なペースダウンが起こらないかぎり、このまま劇場公開だけでも黒字化に持ち込めるだろう。世界興収は『ヴェノム』が8億5608万ドル、『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』が5億681万ドルなので、どこまで前作に接近できるかがポイントとなる。
海外市場でずば抜けた成績を見せたのは中国だった。前作の劇場公開が見送られていたにもかかわらず、公開後5日間で4600万ドルの大ヒット。スーパーヒーロー映画としては『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)以来、また今年中国で公開されたハリウッド映画としては最高の初動となった。メキシコや韓国、イギリス、インドでも好調なスタートを切っており、日本でも3日間の先行上映を経て、いよいよ11月1日に本公開を迎える。
ところで、DC映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が北米メディアとSNSにおけるネガティブキャンペーンの影響を受けて惨憺たる興行となったのはまだ3週間前の話だが、やはりコロナ禍以降、北米ではスーパーヒーロー映画人気に陰りが出ている。とりわけ2023年以降はどの作品も厳しい状況で、例外は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(2023年)と、記録的ヒットとなった『デッドプール&ウルヴァリン』(2024年)のみ。2つの作品に共通するのは、スーパーヒーロー映画としては異色作であること、そして世界中のファンが長らく待ち望んだ映画だったことだ。
以前から語られてきたとおり、今でも「スーパーヒーロー映画疲れ」の波はあり、一部の作品だけがその影響を逃れられるとみるべきだろう。ヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンの復帰など、諸条件が重なった『デッドプール&ウルヴァリン』の大ヒットだけを見て「スーパーヒーロー映画疲れはない」というのはアンフェアだ。そのなかで、興行を支えるファンダムの期待に応えることを放棄し、ジャーナリストや批評家に対しても挑発的だった『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が興行的失敗に終わったのはやむをえないことだったのかもしれない。
スーパーヒーロー映画としては、再びコミックの『スパイダーマン』から派生したソニー製作の異色アクション作品『クレイヴン・ザ・ハンター』が12月13日に日米同時公開予定。来年はマーベル・シネマティック・ユニバースの世代交代第1弾『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』や、悪党チーム映画『サンダーボルツ*』が控えており、これらの変わり種がどのように受け入れられるかがポイントとなる。