常識を超えたバイオレンスアクション 『ギャング・オブ・ロンドン』が描く修羅の世界

 2020年4月に英国ではスカイ・アトランティック、米国ではAMC+でシーズン1が配信されて、批評家からも視聴者からも圧倒的な評価と支持を受けた伝説のテレビシリーズ、『ギャング・オブ・ロンドン』がスターチャンネルで放送&配信されることが決定した。シーズン1はしばらく日本国内の視聴環境では見られない状況が続いていて、シーズン2(英国では2022年10月に配信)にいたってはこれまで未上陸だったので、これが待望の再配信&初配信となる。

 『ギャング・オブ・ロンドン』が伝説のテレビシリーズとして称賛されてきた最大の理由は、やはりその圧倒的なアクションシーンの切れ味だろう。『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』や『ブレイキング・バッド』や『ナルコス』から、最新の作品だと『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』まで、これまで傑作と呼ばれるテレビシリーズにはマフィアやギャングの世界を描いた作品が少なくないが、銃撃戦の熾烈さや火薬量においても、肉弾戦の過激さや生々しさにおいても、『ギャング・オブ・ロンドン』はこれまでのあらゆるテレビシリーズの常識を超えている。

 それもそのはず。『ギャング・オブ・ロンドン』シーズン1のショーランナーと主要エピソードの監督を務めたのは、『ザ・レイド』(2011年)、『ザ・レイド GOKUDO』(2014年)でアクション映画を新しい次元へと導いたギャレス・エヴァンスなのだ。『ザ・レイド』シリーズを世に送り出した後、ソニー・コンピュータエンタテインメントヨーロッパ(日本の発売元はカプコン)のクライムアクションゲーム『ゲッタウェイ』シリーズの映画化を打診されたエヴァンスは、その作品世界やキャラクターをより深く探求するためにテレビシリーズとして製作することを逆提案。本作のタイトルである『ギャング・オブ・ロンドン』は『ゲッタウェイ』シリーズの第3弾として2006年にリリースされたスピンオフ版ゲームと同じものだが、時代設定もキャラクター名もゲーム版とは異なっている。つまり、エヴァンスは「人気ゲームの映像化」を口実に、長編映画のフォーマットで『ザ・レイド』シリーズで達成したのと同様、『ギャング・オブ・ロンドン』ではテレビシリーズのフォーマットにおけるアクションとバイオレンスの限界を超えることを目論んだわけだ。

 もう一つ、『ギャング・オブ・ロンドン』という作品の大きな意義は、これまでテレビシリーズに限らず映画においてもギャングものといえば北米や中南米、あるいは『ゴッドファーザー』(1972年)の時代まで遡ればイタリアン・マフィアのルーツであるシチリアなど、舞台となる国や地域に偏りがあったが、現代のロンドンがどれだけ要所であるか、言葉を換えるなら「ヤバい都市」であるかを、余すことなく描いているところにある。近年の作品としては『トップボーイ』(2011年〜)に代表されるように、確かにこれまでもロンドンの「ストリート」を描いた裏社会ものやギャングものの秀作は作られてはきた。しかし、ニューヨークと並ぶ世界最大の金融都市ロンドンを舞台に、政治家、投資家、不動産業者、国内の東欧やトルコの移民コミュニティが暗躍するだけでなく、アフリカや中東の国々の裏社会とも密接に繋がっているこの街の地政学的な重要度とスケール感をそのまま映像化してみせたという点で、間違いなく『ギャング・オブ・ロンドン』は前例のない画期的な作品となっている。

 もちろん、フィクション作品としてのケレン味もたっぷりで、シーズン1の終盤の展開にいたっては『007』シリーズでも見たことがないようなロンドンの街全体を揺るがす大規模な破壊活動が起こったりもするのだが、ネタバレになるのでここでディテールには踏み込みまないでおこう。今回日本で初配信となるシーズン2は、衝撃に次ぐ衝撃の連続で幕を閉じたシーズン1の「1年後」から始まる。主要キャストを見ればシーズン1の壮絶なクライマックスで誰が「生き残った」かがわかってしまうので、まだシーズン1未見の方はこちらも注意が必要だ。

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