“『ドラゴンボール』らしさ”を思わせる『DAIMA』 『GT』との比較からみる今後の展望
『ドラゴンボールDAIMA』が10月11日より放送開始した。今作は事前情報が少なく、公式サイトでもストーリーやキャラクターが直前まで伏せられていたが、第1話が放送され、大まかな物語が見えてきた。ここでシリーズの特徴や過去作との繋がりから、今作が目指すであろう『ドラゴンボール』らしさとは何かを考えていきたい。
『ドラゴンボールDAIMA』は、原作漫画/アニメ『ドラゴンボールZ』で描かれていた魔人ブウとの戦いのあと、平和になった地球が舞台となる。魔人であるゴマーとデゲスの2人は、画面越しに孫悟空たちの戦いを眺めていたところ、ドラゴンボールが地球にも存在することを知る。強力な敵を倒してきた悟空たちを危険視した2人は、地球へと降り立ちドラゴンボールを集めると、神龍の願いによって悟空たちを子どもにしてしまう、というのが第1話の大まかなあらすじだ。
漫画『ドラゴンボール』は1995年に連載が終了したが、その人気は現在もとどまることを知らず、さらに拡大している。バンダイナムコホールディングスの2024年3月期決算資料によると、『ドラゴンボール』関連作品は1406億円の売上高を報告しており、これは『機動戦士ガンダム』の次に高い数字となっている。バンダイナムコホールディングス以外が関わる漫画・アニメなどの売上高などがさらに加算されると考えると、現在でも強力なタイトルであることがわかる。(※1)
ゲーム作品では10月7日に『ドラゴンボール Sparking! ZERO』が発売。また2020年に発売された『ドラゴンボールZ KAKAROT』は、原作に準拠した物語もあり、多くの配信者がプレイし、シリーズに触れたことがない人も物語を知る機会となった。アニメ映画も『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』が全世界で138億円以上の興行収入を記録している。(※2)
これほどの人気作のために新作が制作されるのも当然なのだが、ここで問題となるのが作品の方向性だ。原作の魅力を分析すると、大きく分けて2つの選択肢が考えられる。
①連載初期に代表される、冒険が中心となるストーリー
②連載後期に代表される、強大な敵とのバトルを描くストーリー
鳥山明さんの描いた原作の魅力として、孫悟空などのキャラクター造形がまずあがるが、それはどちらの選択肢でも健在だ。独特の世界観から描かれるモンスターや、車などのガジェットのデザインが豊かで、魅力を発揮しているのは連載初期の①だろう。一方で鳥山明さんのコマ割りなどから発揮される、アクション描写の巧みさを物語の中心とするならば、バトル描写が豊富な②がより向いている。特に戦いが激化し、空中戦なども展開されるようになると、横だけでなく縦のコマ割りなども活用される。アニメとしても、派手なバトルは映像の魅力が高くなり、『ドラゴンボール』の真骨頂といえるだろう。
近年のアニメ作品では②の要素を強調する作品が多くなっていた。時にはコメディも挟みながら、新たなる強敵との対決が描かれてきたが、その路線では戦闘力のインフレがあまりにも激しすぎた。『ドラゴンボール超 』では、原作で最高の地位にいるとされている界王神すらも超えて、破壊神、全王という存在まで登場し、宇宙が何個もあるという壮大な設定となった。『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』などのように、より強大な敵を出して迫力のあるバトル描写を描く際には有効な設定ではあるが、あえて新シリーズを立ち上げるとなると、全く違う魅力を打ち出す必要があるだろう。
『ドラゴンボールDAIMA』第1話では、悟空たち主要人物が小さくなり幼少期に戻る展開となった。これは『ドラゴンボール』初期のように冒険を中心にして、ドラゴンボールを7個集めて元に戻ることを悟空たちの目標とすることを選択したのだろう。同時に悟空たち主要キャラクターを弱体化することにより、敵を過度に強大な存在にする必要がなくなった。戦う相手が魔人ブウなどの強敵より弱い相手であっても、味方が弱くなればいい勝負になる。さらにヤムチャなど、強大な敵についていけなくなった初期のキャラクターが活躍する余地も増えるだろう。新シリーズを描くにあたり、近年の作品との差別化を行う上で、納得できる選択だ。