「朝ドラヒロインらしいヒロイン」なんてどこにもいない “カウンターヒロイン”の15年史

 ヒロインの「業」といえば、『スカーレット』(2019年度後期)の喜美子(戸田恵梨香)が自らの追い求める陶芸を実現させるために、息子の武志(中須翔真)のために積み立てていた教育資金を溶かしてまで穴窯に注ぎ込む描写が白眉だった。「芸術」とは、かくも苛烈な人間の内面の炎が作り出す結晶なのだと、川原喜美子の生き様を通じて描いていた。

『スカーレット』喜美子の中に宿る“剛と柔” これまでの朝ドラヒロインとは異なる複雑な内面性

年明けから「陶芸家編」が始動した連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)で、息が苦しくなるような展開が続いている。ヒロイン・…

 「前代未聞の三世代ヒロイン」を主人公に据えた『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)。時代の波に翻弄され、最愛の我が子を手放さねばならなかった安子(上白石萌音)から物語が始まり、「母親に捨てられた」という葛藤を抱え続けたるい(深津絵里)が、最終的に「みんな間違うんです」という境地に辿り着くところが、この作品の凄みであった。世の中に完全に正しい人間も、完全に正しいヒロインもいない。

  『舞いあがれ!』(2022年度後期)の舞(福原遥)は一見、柔らかくふんわりした雰囲気で、あまりちゃんと観ていない人が表層だけとらえれば「朝ドラヒロインらしい」と言われるのかもしれない。しかし、彼女が内面に宿す「空を飛びたい」という確固たる信念、熱い情熱と揺るぎのなさ。そのソリッドな人物造形が痛快だった。人間がそうであるように、朝ドラヒロインも実に多面的で多層的なのだ。

 このように、どの朝ドラもオリジナリティへの創意工夫を重ねてきたはずで、どのヒロインもそれぞれに個性的だ。

 シリーズ111作目『おむすび』の制作統括・宇佐川隆史氏は、本作を平成が舞台の「現代もの・オリジナル作品」にした理由について、『らんまん』『ブギウギ』『虎に翼』と「モデルありの時代もの」が3作続いたので「朝ドラの可能性として、1回違うことにトライしてみたいという思いがありました」(※)と語った。言うなればこれも「カウンター」だ。平成を生きるヒロイン・結は、はたしてどんな人なのだろうか。時間をかけて彼女の人生を知る半年がはじまる。

参照
※ https://maidonanews.jp/article/15444114

■放送情報
2024年度後期連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、宮崎美子、松平健、佐野勇斗、菅生新樹、松本怜生、中村守里、みりちゃむ、谷藤海咲、岡本夏美、田村芽実ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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