『GO HOME』に溢れた現実への“リスペクト” 脚本・八津弘幸がもたらした新しさとは
数多く制作されるドラマのなかには、「こんな仕事があったのか」と知識欲が満たされるドラマがある。夏ドラマのなかでいえば、『GO HOME〜警視庁身元不明人相談室〜』(日本テレビ系/以下、『GO HOME』)がそれだ。実在する場所、そこで働く人たちを、ドラマとして描くのは、簡単なことではない。にもかかわらず、『GO HOME』は、リアリティとエンタメとして必要な要素を的確に押さえた、新しい形の警察ドラマへと仕上がっていた。
『GO HOME』の新しさを支えたのは、全体の構成にある。第1話は理科室の骸骨が人骨だったことが明らかになるという導入で、殺人の疑い、自殺の疑いと、二転三転しながら展開し、エンタメ性が際立つ内容になっていた。第2話は4000万円の遺留品、第3話は整形による入れ替わりなど、フィクションならではの設定を導入にしつつ、死んでしまった人や帰りを待つ人が抱える想いは普遍的なものだった。エンタメとしての面白さを犠牲にせず、実際に身元不明人相談室で働く人や助けを求める人への配慮もあり、リアリティのバランス感が際立つ。
特異的だったのは、物語の早い段階で主人公・三田桜(小芝風花)と月本真(大島優子)の過去のわだかまりを解消したことだ。第4話では行方不明だった真の婚約者の消息が明らかになり、第5話では桜の後悔、自殺未遂、両親との関係についてが描かれた。一般的には、メインキャストの過去や事情は、連ドラ全体を通す一本の軸として扱われるものだろう。『GO HOME』は桜と真が抱える苦悩を縦軸とせずに、他の事件と同等のありふれた事件の一つとして扱っていた。エンタメ性を無理に強調しすぎないいい塩梅の調整と言えるだろう。
そして、第6話、第7話では行旅死亡人の帰る場所が、必ずしも法的に担保される家族の元ではないというストーリーを描き、第8話、第9話では手嶋(阿部亮平)や堀口(戸次重幸)など仲間の過去にも触れながら、特殊な環境に置かれる人の事情にまで触れていった。さまざまな角度から死んでしまった人、残された人の悲哀を丁寧に掬い取っていった。
各話それぞれのテーマを俯瞰してみると、そこには帰りを待つ人の切実な想いが見えてくる。その想いに寄り添う身元不明人相談室のメンバーが、持ち物に残された思い出、人の記憶、そういった崩れてしまいそうな証拠を手繰り寄せながら、行旅死亡人が抱えていた想いを紐解き、待っている人の元へ送り届ける過程を丁寧に描いてきた。高いエンターテインメント性を保ちながら、誰かを誰かの元に帰したいという優しさに包まれた作品だったと感じる。