『虎に翼』革新的だった“男らしさの呪い”からの解放 花岡と轟の人物造形に込められた思い

 彼は、はじめての登場シーンでは、「男と女がわかりあえるはずがないだろう」とか「人類の歴史をみればわかる。男が前に立ち、国を築き、女は家庭を守るんだ」と偏見バリバリのことを女性たちに向けてまくしたてる。女子部と男子たちが共にハイキングに行くことになったときも、轟が「女は男と違って体力がないからな」と言うと、山田よね(土居志央梨)は、それまでハイキングに行くことを渋っていたのに「行く! お前より早く登りきる」と敵対心をむき出しにする。このようなシーンは、ふたりがよき仕事上のパートナーとなっている今となっては微笑ましい。

 しかし、轟は寅子たち女子部の面々と接することで変わっていく。轟が「いい奴」なのが垣間見えたのは、花岡が「女ってのは優しくするとつけあがるんだ、立場をわきまえさせないと」と男子学生だけで話していたときのことだった。これまでは、女性に偏見のあった轟が、その言葉を「撤回しろ!」と何度も何度も花岡に詰め寄るのだ。

 その後、轟は入院している花岡が、自分を突き落として入院をさせた寅子のことを法的に訴えようとするが、そんな花岡を平手でぶち、「思ってもないことをのたまうな。ここには俺しかいない、虚勢を張ってどうする」と告げる。この言葉があったからこそ、花岡は梅子に素直に自分の気持ちを打ち明けられたのだろう。

 戦後、轟は、花岡に思いを寄せていたことにも気付き、そして後に同性のパートナーと交際することにもなる。

 後半、轟が過去の自分を寅子との会話の中で振り返るシーンがあるが、そこでも花岡のように、轟は自分の気持ちを素直に吐露していた。彼は、寅子に向かって亡き花岡に寄せていた気持ちを正面から語るのである。そうできるようになった背景には、よねの「あたしの前では強がらなくてもいい」という言葉があったからだった。

 男性たちにかけられている「呪い」の中には、「強くあれ」とか「優秀であれ」とか「家を守れ」というものがあるとも思えるが、もうひとつ「心を見つめて言語化するのは女性のすることであるから、男性はそんなことはするな」というものもあるのかもしれない。

 花岡も轟も、自分の心の声に耳を傾けて、その声を言葉にしていたシーンがあり、そこにいつも心を持っていかれた。それは彼らが「呪い」を解いたシーンだったからなのかもしれない。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、岡田将生、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、戸塚純貴、岩田剛典、高橋克実、余貴美子、平田満、沢村一樹、滝藤賢一、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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