『虎に翼』美位子の“葛藤”に寄り添う寅子の言葉 “できる限りの幸せ”が与えた希望の光

 『虎に翼』(NHK総合)第128話では、最高裁で美位子(石橋菜津美)の事件の判決が下される。

 物語冒頭は、最高裁判所長官である桂場(松山ケンイチ)らが入廷する場面と、寅子(伊藤沙莉)が早朝によね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)の事務所を訪ねる場面が交互に描かれた。桂場らの入廷シーンには重厚感があり、凄まじい緊張感が伝わってくる。瞳を閉じ、静かに判決を待たんとするよねの表情にも、その場の空気が表れている。

 第128話では、美位子のある言葉が胸をつく。美位子は寅子を呼び止め、「もし勝てたらどうなるんですか?」と問いかけた。寅子は、原判決が破棄されれば、執行猶予がついてすぐ社会に戻れるだろうと返すのだが、「でも、それっていいんでしょうか」という美位子の思いがけない返答に戸惑う。

「私、人を殺したんですよ?」

 どうして人を殺してはいけないのか、第127話でそう問いかけた美雪(片岡凛)と寅子のやりとりが思い出された。寅子は美雪の問いに真摯に向き合い、答えた。しかし目の前にいる美位子は確かに人を殺している。

「私、あの時……」
「ひもで締め上げた感覚が、今でも手に残ってるんです……」
「毎晩毎晩夢に見て……。服役した方が気が楽なんじゃないかってずっと考えて……」

 人を殺した事実が消えることはない。そのことは美位子が一番よく理解している。

 美位子を演じる石橋は、美位子にしか感じ得ない苦しみをその表情や佇まいから見事に演じ切った。よねや轟、寅子の前での美位子は穏やかな印象を受ける。微笑みを浮かべていることも少なくない。だが、その面持ちからは、自分が受けてきた地獄や人を殺した事実を抱え込みながら、それを心の奥にグッとしまい込もうとしていることが伝わってきた。

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