神尾楓珠、『最寄りのユートピア』で見せる“声の表現力” 多彩さをキャリアと共に振り返る

 日本のエンターテインメントシーンの“いま”を背負う人々の、その中心に立つ存在だと断言できる俳優の神尾楓珠。そんな彼が主演を務めるスペシャルドラマが9月25日に放送される。そう、『最寄りのユートピア』(フジテレビ系)だ。ここで彼はどのような姿を見せてくれるのだろうか。

 本作は、夢と現実のはざまで葛藤する男女が夜の公園で巡り会い、物語が展開していく人間ドラマ。“お酒”と“音楽”とともに過ごすこのふたりの時間がもたらす奇跡を描くものなのだという。そんな作品で神尾が演じるのは、主人公の工藤隆司。ライブ会場で警備のアルバイトなどをしながら、憧れのバンド・flumpoolのボーカルである山村隆太のようなミュージシャンになることを夢見ている人物だ。

 しかし、私たちの日常や人生がそうであるように、フィクション上の登場人物たちだって、そう簡単にうまくはいかない。隆司は高校時代の同級生とバンドを組んでいたが結果が出ず、5年前に解散。それでも彼は音楽の道をあきらめられず、いまはフリーのシンガーソングライターとして路上ライブを中心に活動を続けている。

 けれどもいつからか隆司にとって音楽活動は、日常を過ごすうえでの惰性的な作業のひとつに。生活はどうにかなっているものの、彼は自分の才能への自信を失くしかけている。そのような時期に、当たり障りのない日常を過ごしていた木崎夕莉(北香那)と出会うのだ。

 さて、この私たちの日常や人生にもふと訪れそうな素敵な物語への期待もさることながら、やはり注目すべきは主演を務める神尾のパフォーマンスだろう。

 思い切って言ってしまうと、隆司のような人間は世の中にごまんといる。実際に私は彼のような人物に会ったことがあるし、あるいはもしかするとそれは、いつかの私自身かもしれない。つまりこの隆司というキャラクターは、ごくありふれた存在だと言うことができると思う。たびたび街角ですれ違うような人物を演じながら、一夜限りのスペシャルドラマを主演俳優として率いるーーこれが本作で神尾に課された役割である。

 ここにはなかなかのハードルの高さがあるのではないだろうか。もちろん、『最寄りのユートピア』が映画だったなら話は変わってくる。劇場内ではスクリーンに映し出されるありふれた登場人物を見つめることを、なかば誰もが強制されるからだ。しかしテレビドラマの場合、彼を見つめ続ける強制力を『最寄りのユートピア』という作品は持っていない。それでも私たち視聴者は、自分たちにどこか似たところのある青年の姿をじっくりと見つめるだろうか。

 むろん、ドラマチックな物語の展開や演出は用意されているはず。しかしそれで私たちの注意が作品に向かったとして、果たしてどれくらい続くものだろうか。“神尾楓珠=工藤隆司”の前で足を止める、くらいではダメなのだ。

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