『虎に翼』寅子が考える“殺してはいけない理由” 一人二役を演じた片岡凜の表現の巧みさ

 寅子が出した結論はこうだ。

「奪われた命は元に戻せない。死んだ相手とは言葉を交わすことも、触れ合うことも、何かを共有することも永久にできない。だから、人は生きることに尊さを感じて、人を殺してはいけないと本能で理解している」

 この戦争で最愛の夫である優三(仲野太賀)を亡くした寅子なりの答えだ。そんな寅子に対して、美雪は薄ら笑いを浮かべながら「そんな乱暴な答えで、母は納得しますかね?」と問いかけると、寅子は「私は今、あなたの質問に答えています」と答える。それを聞いた片岡凜の些細な表情の変化がとても素晴らしかった。

 美雪は隠していたナイフを取り出し、「母も娘も他の子たちとは違う異質で特別で手に負えない。救いに値しない存在だと」と寅子に詰め寄った。寅子は「まったく逆」と反論し、美佐江を恐ろしい存在であると勝手に思ってしまっていたことへの後悔と過ちを美雪へとぶつける。「親に囚われ縛られ続ける必要はないの」という寅子の言葉に、美雪の目からは涙があふれる。

 寅子は美雪を試験観察とし、民間の施設で生活させることを決定した。そこから半年後、寅子は再び美雪と対面する。「先生、私まだあの施設にいてもいいですか?」と語る美雪。その本心は自分と暮らすことで迷惑をかけてしまう祖母の佐江子(辻沢杏子)を心配してのことだった。そんな美雪に寅子が投げかけたのは「あなたの本心は?」という言葉。美雪が「私は……」と言いかけると、佐江子は「おばあちゃんは早く一緒に暮らしたい」と伝える。美雪は涙を浮かべながら「おばあちゃんと一緒にいたいです」と本音を打ち明けた。寅子は美雪を不処分とし、これからの人生を本人に委ねることにした。

 昭和48年4月、ついに最高裁大法廷の判決日がやってくる。いよいよ長きに渡ってよね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)が向き合ってきた美位子(石橋菜津美)の事件が決着しようとしている。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、仲野太賀、土居志央梨、戸塚純貴、平埜生成、川床明日香、名村辰、松川尚瑠輝、尾碕真花、和田正人、石橋菜津美、中山祐一朗、木場勝己、矢島健一、平田満、沢村一樹、滝藤賢一、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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