『海のはじまり』“夏”目黒蓮になぜ引き込まれるのか これまでと違う生方美久脚本の強さ

 残り2話となった連続ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)が、静かな盛り上がりを見せている。

 月9(フジテレビ系月曜21時枠)で放送されている本作は、昔の恋人・南雲水季(古川琴音)との間に生まれた6歳の娘・海(泉谷星奈)がいることを知った青年・月岡夏(目黒蓮)の物語だ。

 脚本を担当しているのは『silent』(フジテレビ系)の生方美久。2021年にヤングシナリオ大賞を受賞し、連続ドラマ『silent』が大きく注目されて社会現象となった生方美久は新進気鋭の若手として現在、もっとも注目されているドラマ脚本家の一人だ。

 『silent』というタイトルに象徴される「静かで優しい世界」は、コロナ禍に若者たちが求めていた気分とシンクロしたことで、時代を代表する作品となったが、筆者には辛い現実を遮断するシェルターのような世界に映った。

 2作目の連続ドラマとなった『いちばんすきな花』(フジテレビ系)では、2人組を作ることが苦手な4人の男女が一つの家に集まる共同生活を描いていたため、現実を遮断し、気の合う仲間だけで閉じこもるシェルター的世界観がより強まっていた。

 その一方で、生方のドラマは家族の描写がとても濃厚で、恋人や友人は別れられるが血の繋がった家族は別れられないという強い意志が感じられた。そして、今回の『海のはじまり』は「人は血縁から逃れることができない」という“家族の業”を正面から描こうとしているように感じた。

 物語は、夏が娘の海と向き合う中で少しずつ父親としての自覚が芽生えていく姿を描いている。死んだ恋人が自分の娘を一人で育ていたという導入部こそショッキングで、物語としての引きは強かったが、全体のトーンは静かで淡々としている。

 だが、夏が恋人の百瀬弥生(有村架純)や家族に、大学時代の恋人との間に生まれた6歳の娘がいること、過去に夏は中絶に同意し、堕ろしたと思い込んでいたことについて説明する場面の緊張感は凄まじかった。夏があまり喋るタイプではなく、説明が苦手な青年であったことが物語の緊張感を倍増させていた。

 本作を観ていて一番引き込まれるのは、月岡夏のキャラクター造形だ。夏は自分の気持ちを言葉にすることが苦手な青年で、いつもうまく喋れない。だから彼が誰かと話す場面を観ているだけでハラハラしてしまう。夏を演じる目黒蓮は『silent』に続く生方作品の出演。寡黙で自己主張をせずに相手の意見に耳を傾ける優しい男を演じさせると、今の目黒蓮の右に出るものはいないのではないかと思う。

 そんな夏の気持ちが見えるようで見えないのが本作の面白さだ。状況に流されて受動的に振る舞っているように見える夏だが、他の人より思考が遅いだけで何も考えていないわけではない。むしろ、物事を曖昧にせず、常にはっきりさせようとするところがある。

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