『虎に翼』複数人脚本制ではなく吉田恵里香だからこそ描けるもの いま向き合う“戦争”の傷

 航一は麻雀が好きで、寅子を杉田主催の麻雀大会の見学に行こうと誘う。これまで、いっさい、優未を連れ出さなかった寅子が珍しく優未を伴って麻雀大会に訪れると、太郎は優未に空襲で亡くなった孫を重ねたらしく激しく泣き崩れる。弟・次郎(田口浩正)によれば、娘と孫を空襲で亡くし、最近、妻も亡くなって、仕事に没頭していたという。太郎の過剰な「持ちつ持たれつ」の強要も、仕事しか「拠り所」がなかったゆえなのだろうかと想像させた。彼にももっとたくさんの「拠り所」があれば、偏った仕事をしないのかもしれない。

 そして、そんな太郎の悲しみを見て、「ごめんなさい」と抱きしめる航一は何を抱えているのか。寅子が問いかけても航一は答えない。

 航一の言った「死を受け入れられない」が、寅子にも太郎にも思い当たるふしがあり、航一自身が最もそうであるのではないかと想像を膨らませながら、第17週は終わっていく。新潟編はどこに向かっているのか、予想がつかず、そこがおもしろさである。

 寅子の成長、娘や航一との関係、離れ離れになった学友たちとのその後、戦後の傷、犯罪の温床となりかねない人間の関係性などをぎゅぎゅっと詰め込んで、ひとつの物語にする作家の器用さを感じる。これだけ引き出しがあると、重宝されるだろう。

 長丁場の朝ドラの脚本執筆はどこかで疲れが出るもので、だからときには、複数脚本家体制になることがある。『舞いあがれ!』は航空学校編の専門性が高い部分を、『ブギウギ』では戦中のシリアスなエピソードなどをセカンドライターが担当した。また、『スカーレット』や『エール』では本編にスピンオフ的なストーリーを挟んで小休止的な流れを作ったこともあった。『虎に翼』は30代の作家がたったひとりで書き続けている。リーガルエンタメな部分もホームドラマ的な部分も戦争のこともスピンオフ的なご当地ミステリー的な部分もすべてなんとか形にしている。それだけでもすごいことである。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜~金曜8:00~8:15、(再放送)毎週月曜~金曜12:45~13:00
BSプレミアム:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜8:15~9:30
BS4K:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、岡田将生、森田望智、田口浩正、遠山俊也、望月歩、堺小春、三山凌輝、竹澤咲子、高橋克実
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか

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