『新宿野戦病院』は『IWGP』×『俺の家の話』? 宮藤官九郎が描き続ける“土地”と“今”
次に、ホームドラマとしての『新宿野戦病院』である。本作において実に頻繁に描かれているのが、「食卓を囲む人々」の姿だ。エンディングにおいて、家長の席に鎮座した啓介を中心に、敬三(生瀬勝久)、舞、岡本(濱田岳)、遅れて入ってきた享とヨウコが食卓を囲み、BUG RICEを食べる姿が象徴的に描かれていることからもわかる。
本作において食事は、一見バラバラな人々を繋ぐ重要なモチーフになっている。例えば、アメリカから来たヨウコには不評な高峰家の朝食は、ご飯に味噌汁、焼き魚、納豆に卵、いかの塩辛と、理想的な和朝食である。興味深い点は、エンディングとは違い、啓介は悉く「俺の朝メシ」と「私の席」を奪われ続けるということ。さらに、第3話において、「BUG RICE」はヨウコの「お袋の味」であることがわかり、啓介の行きつけのジャズ喫茶「BUG」でヨウコと啓介は、片や泣きながら、スプーンで騒々しく卵を潰しつつ「うんめえ」とそれを頬張る。そこで啓介とヨウコの間に親子のような関係性が生まれる(「もしや本当に親子なのでは?」と視聴者に思わせたりもする)。
堀井(塚地武雅)の好物のペヤングもまた、本作において欠かせない存在だ。第2話において、マユはヨウコと真夜中のペヤングをシェアする。朝起きて並んで歯を磨く時、マユは一際嬉しそうな顔をしている。それは恐らくそこに拠りどころとなる「ホーム」を見つけたからではないだろうか。また、思い思いの食べ物を持ち寄り、一つ所に集って食べる聖まごころ病院の医師・看護師たちの光景も、1つの「ホーム」を構築していると言える。つまり本作は、人々が「食事をする」という1点において、その新しく、より自由で流動的で開放的な「家の話」を描いている。ある意味、令和版『池袋ウエストゲートパーク』のようで実は『俺の(私の/私たちの)家の話』とも言えるのかもしれない。
そして、歌舞伎町そのものが一つの大きな「ホーム」なのだとしたら、その中心で、一方が太陽なら、もう一方が月の光のように、対照的な輝きを放つのが、ヨウコであり、舞である。片や雑に、片やきちんと「平等に」人々と向き合っている。
■放送情報
『新宿野戦病院』
フジテレビ系にて、毎週水曜 22:00~22:54放送
出演:小池栄子、仲野太賀、橋本愛、平岩紙、岡部たかし、馬場徹(ドランクドラゴン)、塚地武雅、中井千聖、濱田岳、石川萌香、萩原護、余貴美子、高畑淳子、生瀬勝久、柄本明ほか
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:野田悠介
演出:河毛俊作、澤田鎌作、清矢明子
制作:フジテレビ ドラマ・映画制作部
制作著作:フジテレビジョン
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