『マウンテンドクター』大森南朋がひた隠す死の真相 受け継がれる医療ドラマの系譜

 『マウンテンドクター』(カンテレ・フジテレビ系)第3話では、命の選別という重いテーマと向き合った。

 筆者は数日前に遭難しかけた。南アルプスにある3千メートル峰で予定時刻を過ぎても宿泊場所に到着せず、関係者に多大なる迷惑をかけた。原因は疲労と初めての稜線で自己の力量を過信したことだ。幸いにも自力でたどり着けたが、わかっていても不可避的に事故が発生することはあり、リスクを予測しきれないのが山の怖さであると感じた。

 信濃総合病院に設置された山岳医療専門チーム「MMT」。メンバーに加わらなかった江森(大森南朋)には山で患者を死なせた過去があった。日本百名山に選定されている霧ヶ峰高原の車山で倒れた結衣(畦田ひとみ)は、亡くなった患者の娘だった。

 江森の怪しい挙動は、劇中で折に触れて描かれてきた。第2話ラストで、リハビリ中の少年・亘(森優理斗)に話しかける様子は、オペ看護師の早紀(トラウデン直美)に目撃されていた。娘の容態を心配して駆けつけた倉持健作(おかやまはじめ)は、江森を見るやいなや「人殺し」と叫び、院内は騒然とする。倉持は妻の菜月(舟木幸)を死なせた医療過誤で、江森を訴えていた。

 もし江森が本当に「人殺しの医者」であるなら、医療に従事し続けることは難しい。そこには何かわけがあるに違いない。10名の死傷者が出た落石事故で、事故現場に居合わせた江森は菜月に黒色のトリアージメモを残した。黒のトリアージは回復の見込みがなく、助かる見込みのある患者が優先的に搬送され、治療を受けることになる。

 自分から理由を話そうとしない江森には口をつぐむ理由があった。第3話で明かされた真実は、医師にとって究極のジレンマといえるものである。本来、命に優劣はない。けれども、もし助けられるのが全員じゃなかったら? その時、医師である自分は何をすべきか。1分1秒を争う状況で決断を下さなくてはならない。たとえその選択が間違っていても。

 遺族の感情に配慮すれば、江森は安易に自身の判断を正当化できないし、するべきでもないだろう。ただし、江森が沈黙を守ったのは、さらに立ち入った事情があった。救助を待つ遭難者は一方的に救われる側なのか。もし助からないなら、死にゆく自分は何をすべきか、という問いかけがそこにはあった。

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