『劇場版モノノ怪 唐傘』で輝く薬売りの圧倒的な美 独創的な“大奥”で妖艶さが引き立つ

 日本には、昔から怪異との深い縁がある。古来より語り継がれてきた妖怪譚、怪談、そして民話。それらは、私たちの心の奥底に、今もなお根強く残っている。そんな日本人の魂に深く刻まれた物語を、独自の解釈で現代に蘇らせたのがアニメ『モノノ怪』だ。

 2006年にフジテレビ「ノイタミナ」枠で異例の高視聴率を記録した『怪~ayakashi~』の一編「化猫」から派生し、2007年にテレビアニメシリーズとして放送された『モノノ怪』。絵巻物のような緻密かつ大胆な美術、CGと和紙テクスチャを組み合わせた斬新な画面、そして、切なくも強く魂を揺さぶる共感性の高いストーリーが当時の視聴者を圧倒し、アニメ史に残る傑作と称されている。

 その『モノノ怪』が17年の時を経て新たな物語を紡ぐ『劇場版モノノ怪 唐傘』が、7月26日より全国ロードショーとなる。

『劇場版モノノ怪 唐傘』本予告

 『モノノ怪』の魅力の源泉とも言えるのが、物語に欠かせない存在である主人公・薬売りだろう。彼は、モノノ怪を唯一斬り、祓うことができる退魔の剣を携えている。しかし、その剣を抜くには、モノノ怪の「形(かたち)・真(まこと)・理(ことわり)」を明らかにしなければならないという条件があり、“ナニモノ”かの情念から生まれたモノノ怪にまつわる物語を解くことが、モノノ怪退治の前提条件となっているのだ。

 『劇場版モノノ怪 唐傘』では、薬売りが足を踏み入れるのは、権力の中枢にして男子禁制の聖域、大奥だ。そこで起きた不可解な悲劇の真相を解き明かすため、薬売りは退魔の剣を手に、闇に包まれた真実へと歩みを進める。

劇場版で変容を遂げた薬売りの美しさ

 薬売りの魅惑的な存在感は、かつてのテレビシリーズでも幾多のファンの心を虜にしてきたが、今回の劇場版では、その魅力が一層輝く。本作は2007年のテレビアニメから17年の月日を経て生まれた完全新作ということもあり、時代の流れと共に磨き上げられた映像美の中で、薬売りの姿もまた変容を遂げている。だが、その本質――美しくも妖しげな佇まいはもちろん不変のままだ。

 凛とした顔立ちに映える濃艶な化粧。長く伸びた耳と薄紫色の風に揺れるくせ毛が、異邦の香りを彼に纏わせる。ヴィヴィッドな色彩を纏った豪華絢爛な大奥を歩くその佇まいは、見る者が息を呑むほどの美しさだ。

 とりわけ心を打つのは、モノノ怪との対峙の瞬間。普段は物語の影で静かに情報を紡ぐ傍観者が、一転して物語の中心へと躍り出る。能や歌舞伎の立ち回りを彷彿とさせるその所作は、薬売りの存在感を一層際立たせる瞬間だ。劇中にはアクロバティックな薬売りのアクションシーンも盛り込まれている。退魔の剣を構え、鋭い眼光でモノノ怪を見据える薬売りとぜひ劇場で“対峙”してほしい。

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