『燕は戻ってこない』森崎ウィンが与える“安心感” 対比的に描かれた女性用風俗と人工授精
そんなリキが感じている虚しさや惨めさを、全身で包み込んでいくダイキ。“まぐわい”は、漢字で“目合い”と書く。目と目を合わせて、愛情を通わせること。だとしたら、2人のまぐわいはホテルに入った瞬間から始まっていたのかもしれない。リキはダイキの背中に手を回し、思い切り抱きしめた。自分のお金で買った、自分と境遇の似た彼を抱きしめることは、リキにとって自分を抱きしめることだ。そのお金で叔母・佳子(富田靖子)の墓参りに行くこともできたが、今はもうすぐ自分のものではなくなる身体を愛でたかった。
そしてリキはついに便宜上、基の妻となって人工授精の施術を受けることに。ダイキとのセックスとは打って代わり、内診台に乗ったら自分の意思とは関係なく足が開かれ、器具を突っ込まれる。身体的な負担に加え、屈辱的な思いをしても、子供はできなかった。医師から提案された排卵を確実に促す注射には、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群などさまざまなリスクがある。それでもお金を受け取っている以上、拒否することができない。想像以上の大変さに打ちひしがれるリキに寄り添うのは、自身も不妊症の治療を受けたことがある悠子だ。
基の精子とリキの卵子で作られる、自分と血の繋がらない子供を育てていく覚悟を決めた悠子。第4話ではそんな彼女の強さが際立った。基は純粋な男だ。自分たち夫婦とリキは対等なビジネス関係であると一切疑わず、当たり前のように子供が生まれ、悠子と3人で幸せな家族になれると信じている。だが、その純粋さは時に凶器となることを、いつも肌身に感じているのが悠子だ。だからこそ、自分が盾となり、基と千味子(黒木瞳)からリキの尊厳を守ろうとしている。主人公であるリキと心が同期し、気を一切抜くことができない本作において、今回はダイキと悠子の存在が唯一の安心材料だった。
■放送情報
ドラマ10『燕は戻ってこない』(全10回)
NHK総合、BSP4Kにて放送
総合:毎週火曜22:00~22:45放送、毎週木曜24:35~25:20再放送
BSP4K:毎週火曜18:15~19:00放送
出演:石橋静河、稲垣吾郎、内田有紀、黒木瞳、森崎ウィン、伊藤万理華、朴璐美、富田靖子、戸次重幸ほか
原作:桐野夏生
脚本:長田育恵
音楽:Evan Call
制作統括:清水拓哉、磯智明
プロデューサー:板垣麻衣子、大越大士
演出:田中健二、山戸結希、北野隆
写真提供=NHK