『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』20年越し大ヒットの意義 往年の名作に眠る可能性

 いつの時代も、映画興行には意外なヒットがあるのが面白いところだが、2024年はこれまでのところ、それが多くでている。

 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』も予想を超えた大ヒットとなっている作品の一本だ。5月20日時点で興行収入は47.8億円を超えており、全国規模の上映が終了となる5月23日までには48億円を超えることだろう。

 これはガンダムシリーズの映画で最高の興行成績であると同時に、配給会社の松竹(※バンダイナムコフィルムワークスとの共同配給)にとって、アカデミー外国語映画賞を受賞した『おくりびと』に次ぐ邦画歴代2位の記録となる。

 この大ヒットの意外性は、なんといっても約20年前のテレビシリーズの続編であるということ。今、どの程度集客できるのか未知数な部分も多かったはずだ。このヒットの要因はなんだったのかを検討するとともに、この成功がもたらす興行的な意義について考えてみたい。

ファンにとって20年後の同窓会

 『機動戦士ガンダムSEED』の劇場版プロジェクトが最初に発表されたのは2006年。しかし、それから作品は公開されず、公への情報発信も徐々に少なくなっていった。

 普通に考えれば、これは企画自体がどこかでとん挫しフェイドアウト、と解釈されるだろう。実際に発表されてからひっそりとお蔵入りになった企画は数えきれないほど存在するはずだ。

 だが、『ガンダムSEED』公式側からは、この劇場版プロジェクトについて、一度も中止や休止といった発表はなかった。そんな公式側から再度、劇場版に関するアナウンスがあったのは2021年。劇場版の制作が進行中であることが伝えられて、2023年にはティザービジュアルとタイトルが公開されると、「どうやら本当にやるらしい」とかつてのファンも実感を持ち始めた。

 その内容は、ファンにとっては20年待ったかいがあったものだった。かつてのテレビシリーズの要素を随所に彷彿とさせる内容が盛り込まれ、約2時間に作品の魅力が凝縮されていた。ファンが観たかったものが観られたという満足感の高い作品に仕上がっていたこと以上に、福田己津央監督が現代の観客の嗜好を研究し、「体験の共有」を重視した内容にしたことが功を奏したと言える。(※1)

 ファンにとってもこの劇場版の公開は、長い間待ったぶん「20年後の同窓会」のような体験となっていた面があり、それも本作のヒットを支えた要因だろう。20年待ったからこそ、ファンの間に「飢餓感」のようなものもあったという点も良い方向に作用したと思われる。

 ただ、『ガンダムSEED』というコンテンツそのものは、20年間ずっと休眠していたわけではないのだ。アニメとしての新作はなかったが、グッズ展開やゲームなど色々な展開がされており、主演の保志総一朗については、なんだかんだと毎年アフレコの機会があるような状況が続いていたという。(※2)

 つまり、作品として新作はなかったが毎年何かしらコンテンツ展開はあり、ある程度の人気が持続していたということだ。これは『ガンダム』という巨大なIPの一部だから可能となったことかもしれないが、毎年数多くのアニメが放送・公開されても、案外ファンは昔の作品を忘れたりはしないということの表れではないか。

 プロモーション戦略も、かつてのファンに思い出してもらうため、あるいは新規ファンを獲得するためという両方を目的に、テレビシリーズの特別総集編、スペシャルエディションを事前に劇場で上映するなどの施策を打ち、人気の拡大を後押ししようとしていた。

 あとは時代の助けもあった。2020年代に入って、日本の映画興行はアニメが牽引している。今年も『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』や『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』が100億円を超えるヒットを記録しているが、『ガンダムSEED』の劇場版をアニメ放送後すぐに公開していたら、おそらく48億円近い興行成績を上げることはなかっただろう。

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