『燕は戻ってこない』黒木瞳が放った倫理観のない一言 代理出産はただの“買い物”なのか

 そうした倫理的観点を、基は持ち合わせていない。自分は依頼主であるという傲慢さから、リキのあらゆる自由を奪おうとする基。「産めなかったら、クーリング・オフできるの?」と何気なく基の母・千味子(黒木瞳)が放った一言に眉をひそめてしまった。対象となっているのは自分と同じく命を持った人間であるにもかかわらず、ナチュラルにその言葉が出てくる倫理観を疑ってしまう。

 ただ、もともと子どもを望んでいたのは悠子のほうだった。出会った頃の基にはすでに妻がいたが、それでも構わず愛した悠子。彼女が魅せられたのは、基という人間ではなく、トップバレエダンサーだった彼の肉体美だったのかもしれない。舞台上で羽のごとく軽やかに舞う基の細くてしなやかな筋肉。悠子はその遺伝子を欲した。日本人初の国際的バレリーナであった千味子もまた、自身の遺伝子を繋いでいくことに躍起になっている。そんな中でダンサー生命を絶たれた基が、自分に残された唯一の道として、代理出産で自らの遺伝子を継ぐ子を持つことに希望を見出したのは必然だったのかもしれない。

「人間の数だけ、性も欲望もいろんな形があるのよね」

 さまざまな性と欲望が渦巻く中華料理店で、悠子は自分と血の繋がらない基とリキの子どもを育てていく覚悟を決める。バックで流れるのは、朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)で草彅剛が演じた善一のモデルとなった服部良一作曲の「蘇州夜曲」だ。叙情的な美しい恋の歌が心に沁みる中、リキは身体が買われることへの抵抗から、女性向け風俗のセラピストのダイキ(森崎ウィン)と会う。「愛はプロに頼める」と言っていたテル。お金で買った愛はリキにどのような変化をもたらすのだろうか。

■放送情報
ドラマ10『燕は戻ってこない』(全10回)
NHK総合、BSP4Kにて放送
総合:毎週火曜22:00~22:45放送、毎週木曜24:35~25:20再放送
BSP4K:毎週火曜18:15~19:00放送
出演:石橋静河、稲垣吾郎、内田有紀、黒木瞳、森崎ウィン、伊藤万理華、朴璐美、富田靖子、戸次重幸ほか
原作:桐野夏生
脚本:長田育恵
音楽:Evan Call
制作統括:清水拓哉、磯智明
プロデューサー:板垣麻衣子、大越大士
演出:田中健二、山戸結希、北野隆
写真提供=NHK

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