『虎に翼』寅子ら魔女5が歩んできた“地獄”の数々 女性たちの生き様を振り返る

 一方のよね(土居志央梨)には「家」や「家庭」どころか身寄りがなかった。貧しい農家の次女だったよねは、金のために姉が東京の女郎に売られていくのを目撃する。自分も売られそうになったため家出したよねは、なんとか東京で見つけ出した姉の紹介でカフェのボーイとして男装して働きはじめた。しかし、姉が身体で稼いだ金を騙し取られていることが判明。その金はカフェの客で、弁護士でもある男性が取り返してくれたのだが、この時、よねは男性から暗に自分と“特別な関係”となるように提案されている。姉のために力を尽くしたよねだったが、結局、その姉は男と行方不明に。男がよねの希望となるものを奪っていった。だからよねの「地獄」は「女性性」と言えるかもしれない。人々が「女らしさ」に価値を見出し、それを様々なかけ引きに使うのが許せなかったのだ。だからよねは「舐め腐った奴らを叩きのめす力が欲しい」と弁護士を志した。でも、よねの勤めているカフェーは、女が甘い言葉で男を喜ばせ、時に身体を触れさせるところ。まさに「女らしさ」を売りにして金にし、そうしなければ生きていけない女たちがたくさんいるのだ。よねは自らの「地獄」の火に焼かれながら、歯を食いしばってここまで来ているのである。

『虎に翼』はなぜ“今”を写し取るドラマに? 100年前から続く物語を100年先につなげる意義

朝、目が覚める。スマホに手を伸ばしながら「ああ、今日の『虎に翼』どうなるのかな」とその日のストーリーを想像する。こんな朝ドラは久…

 こうしてみると、寅子は恵まれているように見えるかもしれない。だが「共亜事件」があり、寅子は一時期、”犯罪者の娘”として、世間から白い目で見られていた。家を記者たちに囲まれ、学校に行けない日が続き、法学部でも「もう来られないだろう」というようなことを口にする者もいた。この時は、「世間の目」が寅子の「地獄」だった。もし、花岡(岩田剛典)が穂高と一緒に状況を打開しようとしに来なければ、直言(岡部たかし)は無実の罪で罰せられただろう。今のような一家団らんとした猪爪家の未来は訪れなかったのである。寅子は法の力によって一度、「地獄」から一度抜け出すことができた。だからこそ、人一倍、法のプロになろうとする気持ちが強いはずだ。

 様々な理由で試験を受けることができなかった仲間の分の気持ちも力にして、寅子やよねには頑張ってほしいと祈るばかりである。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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