松居大悟が描く、誰かを想う優しい激情 『不死身ラヴァーズ』で最高純度の「好き」が響く

 物語の構造としてはほかにも仕掛けがあるのだが、そちらへの言及は控えておきたい。ただひとついえるのは、『不死身ラヴァーズ』の物語の軸には、“両思いになったら相手が消える”というもの以外にも特殊な設定があるということ。そしてそれが明らかになったとき、長谷部りのの「好き」は少しずつ変容していく。見上愛という俳優の身体を得たヒロインが、それにどう立ち向かっていくのか。彼女の感情を表象する行為として、つねに“見上愛=長谷部りの”は走り続ける。私たち観客はそのひたむきな走り姿から、いったい何を受け取るだろうか。どうか純度100パーセントの、誰かを想う優しい激情であってほしい。

 ここまで基本的に「好き」の感情が生じるシチュエーションを「恋愛」だと規定して綴ってきたが、世の中には多種多様な「好き」が存在する。有形のものもあれば、無形のものだってあるだろう。私はこの映画の冒頭からラストまでを涙ぐみながら鑑賞し、エンドロールが終わったあとに思わず「好きだ!」と叫んで外へと走りに出た。

 私はこの映画が好きだ。観る者に叫ばせ、走り出させるほどの力を持っている。理不尽で残酷な社会の中で忘れかけていた感情を思い出し、私はいつかの時間を思った。過ぎてしまったあの頃に戻ることはできない。しかしこの『不死身ラヴァーズ』の長谷部りのが生きる瞬間(=カット)の連続をとおして、私たちはあの時間を追体験/再体験することができるのだ。

【本予告】『不死身ラヴァーズ』5.10より全国ロードショー

 ネタバレ回避のために“両思いになったら相手が消える”という設定以外には触れないつもりでいたが、かつてAKB48のセンターとして〈好きって言葉は最高さ〉(「大声ダイヤモンド」)と高らかに歌っていた前田敦子が超重要な人物を演じている点は明記しておきたい。

■公開情報
『不死身ラヴァーズ』
5月10日(金)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー
出演:見上愛、佐藤寛太、落合モトキ、大関れいか、平井珠生、米良まさひろ、本折最強さとし、岩本晟夢、アダム、青木柚、前田敦子、神野三鈴
原作:高木ユーナ『不死身ラヴァーズ』(講談社『別冊少年マガジン』所載)
監督:松居大悟
脚本:大野敏哉、松居大悟
音楽:澤部渡(スカート)
主題歌:「君はきっとずっと知らない」スカート(PONYCANYON / IRORI Records)
製作幹事:メ〜テレ、ポニーキャニオン
配給:ポニーキャニオン
製作プロダクション:ダブ
2024/日本/カラー/103分/5.1ch/ヨーロピアンビスタ/映倫区分:G
©2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社
公式サイト:https://undead-lovers.com
公式X(旧Twitter):@undeadlovers_m
公式Instagram:@undeadlovers_m

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