『虎に翼』猪爪家の戦いが幕開け 仲野太賀、頼もしさと“笑い”を両立させるさすがの振り幅

 寅子(伊藤沙莉)が花岡(岩田剛典)の「君のことばかり考えてしまう」という言葉に鼻の穴を膨らませ、小躍りしながら浮かれていたのも束の間、『虎に翼』(NHK総合)は第20話で一気にその雰囲気を変えていく。父・直言(岡部たかし)が贈賄の容疑で逮捕されたのだ。

 猪爪家にズカズカと押しかける検察官たち。家宅捜索の令状を持った日和田(堀部圭亮)を筆頭にして、検察官の高圧的な態度が物々しい空気を醸し出していく。ここで猪爪家にとって頼もしい存在となるのが、優三(仲野太賀)だ。昼は直言の帝都銀行で働き、夜は大学で勉学に励む、高等試験に……何浪か中の猪爪家の書生。検察官に怒鳴られ、恐怖で何も言えなくなっている寅子に代わり、優三は令状が出ている以上捜査は拒めないと、猪爪家を代表し凛々しい態度で冷静に対応していく。しかし、それでも優三は寅子と同じように、書類などを押収していく検察を黙って見ているしかできなかった。

 「今まで学んだことが何にも出てこなくて」と顔を押さえ悔しがる寅子に、優三は「これからつらいことがたくさん出てくると思う。救いなのは僕らが法を学んでいることだ」と心強い言葉をかけてくれるが、「その強みを……最大限に……」と緊張から徐々に腹の調子を悪くし便所へと駆け込んでいく。よく見ると玄関で検察を見送るところから優三はお尻を押さえているが、それが分かりやすく顔にも出ていくというわけだ。顔を真っ赤にして便意を我慢する優三を心配そうに見つめる寅子。こうしたいわゆるコメディとしての芝居もできながら、『豊臣兄弟!』(NHK総合)のような大河ドラマの主演を張れる振り幅が仲野太賀という役者の魅力でもある。

 重苦しく張り詰めた空気はどこへやら、拍子抜けした寅子にはいつの間にか笑顔が浮かんでいる。「悔しがるのも泣くのもあと」と自分に言い聞かせたタイミングで、「何があった!」とだいぶ遅れて玄関のドアを開ける直道(上川周作)も優三とはまた違ったいいキャラをしている、ということが際立つ展開というのも少々皮肉だ。

 事件は大汚職事件、通称「共亜事件」へと発展していく。共亜紡績の株価が高騰すると分かって不正に得た利益が政財界にばら撒かれたとして、共亜紡績などの重役、大蔵省の官僚、現役大臣など16人が逮捕。帝都銀行が株の取引実務を行い、直言は銀行の高井理事(小須田康人)らと共謀して賄賂を贈ったとされた。

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