Netflix版『三体』が人類に問いかける重要なメッセージとは? 賛否の声飛び交う理由を考察

 しかし一方で、複数の主人公による、それぞれのエピソードを配置した原作に比べ、「オックスフォード・ファイブ」なる個性的な同窓の科学者たちが、さまざまな問題に対処するというストーリーの再構成は、ドラマ作品として秀逸な脚色だといえる。前述したデヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイスに加え、TVドラマのプロデューサー、アレクサンダー・ウーらは、評価の高い『三体』の物語を果敢に書き換え、この「オックスフォード・ファイブ」を中心とした、エモーショナルな群像劇に蘇らせているのだ。

 その結果として、本シリーズは前半では、もともとの小説の発想の奇抜さや謎の数々に魅了されるが、後半ではそれぞれのキャラクターが積み重ねてきた感情描写の数々によって、登場人物に感情移入させながら視聴者を引っ張っていく内容となっている。Netflix版『三体』が、このシーズン1以降も製作されるかは、現時点で決定していないが、ラストシーンにおける登場人物たちによる、人類を代表した意地と決意は、さまざまな感情を経て、観る者の胸を熱くさせるものとなっている。

 また、原作の描写が分かりやすく映像化されたことで、人によっては難解な部分があったと思われる原作の興味深い内容が、多くの視聴者に理解しやすいものとして提供されたことも、無視できない点だ。書籍を読むような能動的な習慣が廃れてきているなか、『三体』に含まれた奇想天外な発想の数々が、同時代の多くの人に届けられたことは、本シリーズの手柄だといえよう。

 人類と、より高度な文明を持つ生物との関係が描かれた本シリーズで考えさせられるのは、われわれが、いかに“人間中心”の考えに染まっているのかという点だ。中国で「文化大革命」の時代に存在した悲劇は、全体主義に陥った、さまざまな国の歴史にも呼応していて、同様の犯罪的な行為は世界中で現在も根強く継続されているといえる。それは、「人類は自分たち自身で問題を解決できない」という、本シリーズにおける言葉を裏付けている。

 環境問題、差別問題、戦争や核武装による恫喝など、人類は乗り越えなければならない自滅への道を、依然として歩み続けているように感じられる。それは、人類という種自体に、致命的な欠陥があることを指し示しているのかもしれない。より文明の進んだ存在からすれば、おそろしく野蛮で危険な者たちだと映っても仕方がないところがある。

 だがその一方で、人類に善良な思想や優しい感情が存在するのも確かなことだ。本シリーズに描かれた「三体問題」を考えることは、浮き彫りになった人類の課題に対して、そのようなポジティブな面を発揮しながら、力を合わせて問題を乗り越えていかなければならないタイミングがやってきていることを認識することと同義だといえる。

 その意味において、本シリーズはSFというかたちを取りながら、人類という枠で世界の問題をとらえ、あらゆる方策で対処する必要があることを知らせる、重要なメッセージを伝えていることが理解できるのである。そう、『三体』がわれわれ人類に語りかけようとする最大の“問い”は、すでに多くの点で本シリーズが描ききっているのである。それを真摯に受け取り、それぞれの立場で人類の未来を少しでも良い方向へと動かすことができるかどうかは、視聴者たち一人ひとりの姿勢に委ねられているはずなのだ。

■配信情報
Netflixシリーズ『三体』
Netflixにて独占配信中
製作総指揮:デヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイス
出演:ベネディクト・ウォン、リーアム・カニンガム、エイザ・ゴンザレス、ジョナサン・プライス

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