『ノッキンオン・ロックドドア』は“振れ幅”が魅力 松村北斗×西畑大吾の複雑な関係性

 松村北斗と西畑大吾が初共演を果たしたことで注目を集めた、2023年7月クールのドラマ『ノッキンオン・ロックドドア』(テレビ朝日系/以下、『ノキドア』)が、4月17日にBlu-ray&DVD BOXとなって帰ってきた。

 発売を記念し、3月27日から5月7日にかけて全国5カ所(仙台、名古屋、渋谷、大阪、福岡)で展示イベントも開催。2人が着用した衣裳や愛用していたマグカップ、作中で印象的に映し出されていた探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」のレコードに、場面写真がパネルとなって展示されるというからファンにはたまらない。

 今回は、これだけの盛り上がりを見せるほど視聴者を夢中にした本作の魅力について改めておさらい。Blu-ray&DVD BOXで再度観返しながら、『ノキドア』の世界にどっぷりと浸かろうではないか。

 なんといっても本作の特徴は、御殿場倒理(松村北斗)と片無氷雨(西畑大吾)のバディものであること。倒理は「どうやって事件が起きたのか」というトリック「不可能(HOW)」を、氷雨は「なぜ事件が起きたのか」という動機「不可解(WHY)」を解明する専門探偵として登場する。

 それぞれの得意分野を発揮して1つの事件を解決していく。いわば相棒としてお互いが必要不可欠な存在ではあるのだが、2人の関係性は少々複雑だ。倒理は、こうと決めたらそれがたとえ事を荒立ててしまうのが目に見えていても突き進まずにはいられない猪突猛進型。対して、氷雨は現実的かつ冷静に状況を捉えて慎重に進めていきたいタイプと、まさに正反対。

 倒理はそんな氷雨のことを「個性がない」と揶揄し、「俺の色に染まれ〜!」と従わせようとする強引さも。だが、氷雨も負けてはいない。むしろ倒理の暴走を止められるのは自分だけだと言わんばかりに意地でも食いついていく。そんな凸凹コンビを2人が好演しているのだ。

 松村といえば、持ち前のパーソナルイメージから、どちらかといえばクールな美青年役がよく似合う印象だった。だが『ノキドア』では、ある意味「謎解き依存症」と言いたくなるほど、個性的なキャラクターを熱量高く演じる。

 謎めいた殺人事件の詳細を聞けば「最高の殺され方!」なんて不謹慎な言動を繰り広げるも、どこか憎めない愛らしさも。それは粗暴な言動が目立つ一方で、仲間のために料理を振舞ったり、推理合戦をしながらコミカルに犯人の動きを再現して見せたりと、いくつもある倒理の顔を演じ分けているためだ。

 また、倒理自身が6年前に何者かに首を切られるという密室殺人未遂事件の被害者となった一面も持ち合わせており、その過去にむやみに触れたら壊れてしまいそうなほど繊細な一面を見せる。そして、ふとしたタイミングで事件の依頼人に寄り添う場面には驚くほどナチュラルな表情を浮かべることも。この態度の変化に、倒理が抱える背景が少しずつ透けて見えていく。その奥行きのあるキャラクター像を演じ切った松村は、俳優として新しい扉を開いたように思えた。

 また、西畑演じる氷雨だが、倒理に振り回される「常識人」のように見えて、実は一筋縄ではいかないキャラクターであることが、物語が進むにつれて明らかになってくる。倒理や仲間たちと他愛もない話をしているように見えて、その視線は何か別のことを思い出しているような、時折ハッとさせられるような空虚な眼差しを見せては視聴者をザワつかせる。
口をつくセリフの抑揚はもちろんのこと、表情ひとつで観る者の心を掴む。何か思うところがあることは伝わってくるのに、それが何なのかまでは見えてこない。この思考の階層を丁寧に表現していくところに、西畑の演技力の底力を感じずにはいられない。

 そんな2人がワチャワチャとつかみ合いの喧嘩をしている微笑ましいシーンには素直に笑わせてもらい、憎まれ口を叩きながらもバディとしてそれぞれの能力を信頼していることが伝わってくる場面には胸を熱くさせられる。その振れ幅こそが『ノキドア』の最大の見どころと言えそうだ。

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