北米の劇場興行とアカデミー賞の関係性 『オッペンハイマー』など受賞作の再上映続く?

 3月11日(日本時間)、第96回アカデミー賞授賞式が開催された。言わずもがな、この年に一度の「映画の祭典」は、北米・世界の劇場興行とも深い関係をもつ。

 今回の最多受賞は、クリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』が、作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィー)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)などの7部門。本作は『バービー』と並んで2023年夏の北米映画興行を引っ張り、IMAXなどプレミアムラージフォーマット上映の需要もあいまって、2023年12月、2024年1月の再拡大上映でも優れた成績を記録した。

 アカデミー賞授賞式を控えた3月8日には、上映館数を645館に再び微増させ、10日までの3日間で10万5000ドル(前週比+39.3%)を稼いだ。週末興行収入ランキングでは第23位となっているが、最多受賞を受けたさらなる上映規模拡大も大いに考えられる。本国ではすでに見放題配信もスタートしているが、本作はノーランがこだわり抜いた劇場体験に観客の支持が寄せられた映画だからだ。

『オッペンハイマー』©Universal Pictures. All Rights Reserved.

 『オッペンハイマー』は日本でもいよいよ3月29日に劇場公開を迎える。IMAX、Dolby Cinema、35mmフィルム版の上映も実施されるというから、本国さながらの興行にも期待したいところだ。

 もちろん授賞式にあたっては、他の受賞作品もランキングでの存在感をキープしていた。

 エマ・ストーンの主演女優賞をはじめ、美術賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の計4冠に輝いた『哀れなるものたち』は、週末ランキングで第14位。2023年12月の北米公開以来、決して派手ではないが堅実な興行を続けており、世界興収1億ドルの大台を突破している。

 第16位には、国際長編映画賞、音響賞を受賞した『関心領域』。これまで上映規模をさほど大きくしてこなかったが、3月に入ってからは上映館数を500館規模に再拡大していた。イスラエルによるガザ侵攻(ジョナサン・グレイザー監督が受賞スピーチでも言及した)、ロシア・ウクライナ戦争という現在進行形の事象とも重ねて語られる本作には、今後より大きな注目が集まるはず。さらなる規模拡大にも期待したい。日本では5月24日公開。

『落下の解剖学』©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

 第21位は脚本賞を受賞した『落下の解剖学』、第24位は助演女優賞(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)を手にした『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(日本公開は6月21日)。両作とも、同じく上映館数をわずかに増やして授賞式を迎えることとなった。

 長編アニメーション映画賞に輝いた『君たちはどう生きるか』、視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』の日本勢は、残念ながら北米では上映終了となっており、受賞を受けての再上映は不明。『ゴジラ-1.0』は、ハリウッド版である『ゴジラxコング 新たなる帝国』を手がけたレジェンダリー・ピクチャーズと東宝の契約ゆえに上映を終了したともいわれる。

 本稿でたびたび記してきたように、全米脚本家組合・全米映画俳優組合によるストライキの影響を受け、2024年の北米映画市場は大作・話題作不足が顕著。現時点の累計興行収入は前年比90%程度だが、これは『デューン 砂の惑星PART2』の大健闘で相当回復した数字であり、今後のラインナップを鑑みても映画館業界が心安らげる余地はない。大激戦となった今年のアカデミー賞から、受賞作の再上映・規模拡大が劇場に貢献できることは決して小さくないはずだ。

関連記事