『となりのナースエイド』川栄李奈演じる澪はなぜ原作よりユーモラス? 脚本の狙いを読む
まず先述した、澪が最初に“診断”する待合室の女性こそ、原作の第1章における“ゲスト患者”であったこと。なぜそれをあえて簡単な導入のひとつに変更したのか。考えられるのは、患者の描写を一度リセットしてオリジナルに持っていくためであろう。各話に患者が登場するという医療系ドラマの基本スタイルに持ち込むためには、原作よりも患者の数を増やす必要がある。またそうした枝葉の部分から主人公のストーリーという大幹に行き渡る養分は分散させなければならず、それはオリジナルで作り込んだ方が組み立てやすい。なにより、原作の第2章に登場する結合性双生児の描写は実写ドラマでは難しいということもあるだろう。
原作では主人公が星嶺医科大学付属病院で働き始めて数日が経過したところから物語が始まっていたが、ドラマでは勤務初日からスタートする。これは周辺の人物紹介であったり、仕事内容などを視聴者に不自然にならずに説明するための基本的な脚色だ。澪に“医療オタク”というキャラクター性が付与されている点は、当然彼女の“過去”の部分への視聴者の過度な詮索をある程度防ぐ役割を果たすと同時に、かじった知識を饒舌に喋り出すというオタクのステレオタイプ的描写によって彼女の頭のなかで組み立てられた推理をナチュラルに表出させることもできる。
そしてドラマとして気になるのは、澪と竜崎の関係性をどのように捌いていくのかという点だ。医療オタクの澪が竜崎に強い尊敬と憧れを抱き、彼が人間的にかなり奇特な人物と知ってショックを受け、さらになぜか隣室に住んでいるという一連は、ラブコメ作品の王道である“最悪の出会い”そのものである。もちろん隣に住んでいる点と変わり者という点は原作から引き継がれた部分であり、医療行為以外はまるでダメ人間である竜崎の行動や発言が、時にクールでもあり時にユーモアを放つという点もきちんとこのドラマ版へ持ち込まれている。
『となりのナースエイド』に上乗せされたラブコメ展開 “大河”高杉真宙のギャップも魅力に
ドラマ『となりのナースエイド』(日本テレビ系)が、「コメディとサスペンスが共存する世界観」というのは初回ラスト30秒でのどんでん…
そのため、原作ではほとんどユーモラスさがなかった反面、ドラマでは“お仕事ドラマ”の主人公としてユーモラスさが存分に与えられている澪との相性は、原作以上に良く見える。自ずと竜崎の変人ぶりも強固になっていくように感じ、それが終盤に原作に即した展開に持ち込まれた時にどのように作用するのかは注目しておきたいところだ。脚本を担当したオークラは、これまで数多くのバラエティ番組を手掛けてきた敏腕放送作家であり、ドラマの脚本家としてはコメディ要素が排された2021年の『ドラゴン桜』(TBS系)が代表作。今回はコメディ性とシリアス性の共存が求められる。その手腕が試される場としてはもってこいの作品であろう。
■放送情報
水曜ドラマ『となりのナースエイド』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:川栄李奈、高杉真宙、水野美紀、矢本悠馬、吉住、古田新太、小手伸也、織田梨沙
脚本:オークラ
音楽:井筒昭雄
演出:内田秀実、今和紀(泉放送制作)
チーフプロデューサー:松本京子
プロデュ―サー:藤森真実、藤村直人、森雅弘、白石香織(AX-ON)、島﨑敏樹(泉放送制作)
制作協力:AX-ON、泉放送制作
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
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